「つ、るぎ…き、着替えられないんだけど」

「…松風」

「な、何?」

耳元で囁かれるいつもよりワントーン低い声にドキドキして
頭がくらくらしてしまう
今なら剣城にチョコレートを渡しても受け取ってくれるかな?
…いや、受け取ってくれないだろうな
脳裏にあの紙袋がチラついて密かに震えてこらえていた涙が零れ落ちた

「松風…?」

「つ、るぎ…ひぐっ…うぅ」

「おっおいっ!?」

いきなり泣き出した天馬にどうしたら良いのかわからずわたわたと慌て出す剣城は優しく天馬の頭を撫で小さな子をあやすようになだめた

「俺、何かしたか…?
したなら謝るから泣くな…天馬」

あぁもうどうしてそんなに優しいの
剣城は何も悪くないのに…俺が勝手に思い込んで勝手に泣いてるだけなのに

「っつ、るぎは…何も悪くないよ…ぐすっ
俺が勝手に……ごめ、」

ごめんと言おうとしたら口を柔らかいもので塞がれてその柔らかいものはすぐに離れてしまい
それが剣城の唇だと理解するのに時間はかからなかった

「つ…るぎ?」

「天馬…泣き止んだか?」

あ、涙がとまった…
全然とまらなかったのに不思議だ
さっきまで感じていた胸のチクチクとした痛みが今では暖かくて心地好いものに変わっていた

「あ、のね、剣城…」

「ん?」

「ちょ、チョコレート用意したんだけど…
受け取ってくれる…?」

「くれるのか?」

「い、いらないなら自分で食べるから無理しなくても…」

「好きなやつからのチョコなら欲しいに決まってんだろ」

ふっ、と優しく微笑む剣城はかっこよくてズルいなぁと思いながら天馬は足元に落ちていた鞄の中からラッピングされた箱を取り出し剣城に渡した。


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