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  06:友人


 火の国と土の国の停戦条約が締結され戦争が終わった。
 三代目火影様が土の国への賠償請求を一切無しにするといった融和姿勢を取ったために大人たちは日々不満の声を上げていた。今回の戦争での大損失は土の国からの賠償無しではやっていけないほどだったのは目に見えて明らかだったからだ。
 そんな中、木ノ葉の里では新たな火影の就任式が行われた。新しい里長の就任に人々は大いに湧き、里内は四代目火影を筆頭に国力を復興させようとする空気に満ちていた。条約を締結してしまったからもう仕方ない、と吹っ切れるのにいい機会だったのかもしれない。
 私もお父さんとお母さんに連れられて四代目火影の就任式に行った。里の皆を見渡せるようにか、新たな火影様はとても高いところに居られて顔まではよく見えなかったが、その声は若々しく凛としていて、優しそうな印象を受けた。
 
 そんな、四代目火影様が――――目の前にいる。


「うちはさん、うちはミコトさーん」
「はーい。じゃあ母さん行ってくるから、○○とイタチはここで大人しく待っててね」

 白いナース服を着た看護師さんにお母さんが呼ばれ、奥の部屋へと吸い込まれていく。私とイタチは定期健診とやらで赤ちゃんの成長を診るために病院に行くといったお母さんに無理を言ってついてきた。
 しかし、診察室は狭いからという理由で私たちは待合室で待つことになり二人で「大きくなっているといいね」とか「早く会いたいね」と話しながら時間をつぶし、待合室に数人いる妊婦さんの膨らんだお腹を見て人のお腹ってあんなに大きくなるものなのか、と感心した。同時にお母さんのお腹ももうちょっとしたらもっと膨らむのかな、と期待する。
 その時だった。
 病院のドアに取り付けられた鈴がカラン、と音を立て、ぽかぽかと暖かくなってきた外の空気と一緒に赤い髪の女の人と金色の髪の男の人が入ってきた。

(ほ、火影様だ……!)
 
 私たちはびっくりしてじっと凝視した。すると四代目火影様は笑いかけてくれて、私たちは慌てて頭を下げる。
 四代目様と一緒に病院に入ってきた女の人が駆け寄ってくる。

「あら! あなたたち、ミコトの子?」

 ミコト。お母さんの名前だ。ということは、この人はお母さんの知り合いなのかもしれないと思いながら私はこくりと首を縦に振る。

『お母さんを知っているんですか?』
「勿論よ、友達だもの! ……といっても、子育てに関してはミコトの方が先輩ね」
 
 熟したリンゴのような赤い髪の人は私たちの前の待合椅子に向かい合うように腰掛ける。
 少しして、四代目様がやってくる。私たちは緊張した。

「クシナ、駄目じゃないか。まだ受付も済んでいないのに」
「受付はミナトがやってくれたじゃない」
「まぁ、そうだけどさ……」

 波風ミナト。この間、四代目火影に就任した人。就任式の日は遠くてよく見えなかったけれど、金色の髪は宝石みたいにキラキラ光っていて、目は昔一度見た海の色のようでとてもきれいだった。

「ミコトは三人目ってことになるのね、すごいわ……今、何歳?」
『私が六歳で、弟が四歳です』

と言うと、クシナさんは「そうよね、一人じゃ可哀想よね……」と呟く。
 白いドアの向こう、診察室から出てきた私たちのお母さんは友人の姿に気付き少し早足でやって来る。

「クシナ! なぁに、アナタもおめでたなの? 早く言ってよー、もう、おめでとう!」
「ありがとう! そうなの、今三ヶ月よ。ミコトは?」
「私は五ヶ月よ。やっと半分ってところね」

 あ、そうだ。とお母さんは鞄の中から一枚の白黒写真を取り出しイタチに渡した。私もイタチの横でそれを覗きこむ。黒の中に白い砂嵐のようなものが所々にあって、中央には枠縁が白くて太い楕円形がある。

「ほら、ここ。ここに赤ちゃんがいるのよ」

 お母さんが楕円形の中にある白い影を指さした。イタチも私も、クシナさんも四代目様も写真をまじまじと見る。

「ここが頭、ここが手、この小さいのが目ね」

 確かにそう言われれば赤ちゃんに見えるなあ、と思ったけれど、まだ私の知っている赤ちゃんの姿とはほど遠かった。しかし、あと半年もすればお母さんのお腹の中にいる私たちの弟か妹に会えると思うと待ち遠しくてならなかった。

「五ヶ月ってなるとそろそろ男の子か女の子か分かる頃じゃない?」
「そうね、ちょっと体勢が悪いのかしら。でも次の検診で分かるはずよ」

 受付の人にお母さんが呼ばれる。会計を終わらせたお母さんは私とイタチを呼ぶ。

「じゃあそろそろ行くわね、クシナ、四代目」

 今度お茶しようね、とクシナさんと四代目様は手を振って私たちを見送ってくれた。
 病院を出てからお母さんは先程の写真はエコー写真というものだと教えてくれた。順調に育ってますよ、と先生に言われたことも教えてくれた。
 
 帰り道。

「姉さん、帰ったら修行しよう」

 私はイタチの提案に二つ返事で返す。
 戦争の後、私たちの遊びはかくれんぼではなく修行に変わった。始めのうちはお母さんが得意だったというのもあって手裏剣術を主に行っていたが、今は少しずつ手裏剣術以外の術も腕を磨いている。最近ではアカデミーで習った術を私がイタチに教える。まだアカデミーに通えない年齢のイタチは入学後の予習になるし、私の復習にもなるからだ。
 その上、アカデミーで教わるのは全般的なものの基礎忍術。大人たちが使う派手なものは教わらないが、基礎を蔑ろにしては応用などできない。

『今日は何をしようか……んーそうだなあ、体力も付けたいし瞬身の術とかどう?』

 その名の通り、瞬時に移動する技だ。四代目様がとても得意な技で、相手の背後を取れたり、術をかわしたりできる。極めれば遠距離間の移動もできるが、そのためには体力とチャクラは勿論、空間把握能力や移動してからすぐに次の行動に移すための俊敏力も必要とする。奥が深い術だ。

「いいよ」
『じゃあ決まり!』

 私が言う。それにお母さんは、暗くなる前に帰ってきなさいねと言った。


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再執筆:2015/09/04
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