小説 | ナノ


  四月一日


遊女の言葉は偽りの言葉。
客を落とすためならば、真に嘘を塗りたくり、虚像の城を築き上げる。
遊女とはそういうものだ。
客もそうと知りながら、騙し騙され享受する――。


「お前も俺を騙そうってのか」
『……え?』

そうはいかねーよ、と男は咥えた煙草に火をつける。
顰め面で髪を掻き回し、胡座をかいた。
女は乱れた着物を整えながらそんな男に聞き返した。

「もう今日は散々なんだよ、クソガキに騙され部下に笑われ厄日かっての」
『土方様、どうなされたんです?』
「ちょっとでも浮かれた俺がバカだった。お前は嘘を吐くのが仕事だもんな」
『私、何かお気を悪くするようなこといたしましたか……?』

なんでもねーよ、と男は女を冷たく突き放す。
どうして男が不貞腐れているのか理解出来ていない萩は、眉間に皺を寄せながら紫煙をくゆらす土方の顔をそっと覗きこみ、上半身が肌蹴ている彼の着物の襟を優しく掴み正しながら、その鍛えられた胸板に頬を寄せた。

『もし私が土方様のお気を悪くしてしまったのならどうかお許し下さい。しかし私は貴方様を帰したくないのは本に真でございます』

土方は子どものように臍を曲げていた自分に居た堪れなさを感じながら、肺に溜まった空気を吐き出し、右手の煙草を灰皿に押し付ける。
空いた両手で自分の胸に体を預ける萩を抱きしめ、その白い首筋にがぶりと噛み付いた。

「ったくテメーも嘘が上手だなあ。さすが遊女といったところか」
『遊女の言うことは嘘偽りと申しますけれど、嘘をついてよろしい日に嘘をついたんじゃ格好がつきませんでしょう? 皆様が嘘を申します日は遊女は真を申します』
「4月1日はもう終わったぜ?」
『貴方様がお帰りになるまで私の一日は終わりませんえ』

また近い内においで下さいますか? 寂しくて死んでしまいそうです。
萩は問うた。
土方は何も言わずに腕の力を強めた。
心地よい力加減の拘束とその温もりに、永遠にこの時が続いてほしいと彼女は願った。

「……行かねーな」
『あら、嘘がお上手ですね。……ならばお待ちしております。今度は貴方様が嘘をつかない日に――』

ふふ、と笑って萩は土方の背中に腕を回した。


 



***
4/2の朝。情事の後。
エイプリールフールで散々な目(主に総悟主犯)にあっていた土方が疑心暗鬼になる話。

本編関係ないけど、タイトルは「わたぬき」って読む。
綿は抜かないけど、骨は抜く。……なんてね。

2014/04/01
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