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  娼婦とポリ公


真選組内では、ある女の噂で持ち切りになっていた――。
局長の近藤の代わりに副長である土方が幹部会議での場で発表したのが事の始まりだったが、未だに情報は噂の域を脱しておらず、気付けば男たちの希望や妄想により会議内で提示した情報に背びれ尾びれがついてしまい、結局その女の居場所も、顔も、分からずにいた。

「山崎たちはなんの情報も掴めていないのか?」
「聞き込みはしてるんですが、なにせ人々も名前だけは知っているといった程度でして、その上顧客と思われる人物に辿り着いてもそんなイイ女を他人に取られたくないのか口を割らなくて……」

二度目の幹部会議においても、各隊の隊長たちが期待に胸を弾ませながらも進展しない情報に溜息を漏らした。

彼らに与えられた女の情報は――、「萩」という名前と吉原ではない場所で娼婦として働いていることのみ。他にも背びれ尾びれがついた嘘か真か分からない情報は山ほどあったが信憑性が低いため、それらを全て取っ払っても人探しをする上で必要な最低条件にほど遠い情報しか得られていないことになる。

「酔狂な女もいるんですね、わざわざ自ら身を売ろうなんて」
「田舎から出てきたんだろ。手っ取り早く金が手に入るしな」

今の江戸では幕府により地下都市吉原以外での公娼や郭による売春行為は禁止されている。しかし幕府よって出された芸娼妓解放令は私娼など個人的に売春することを禁じているわけではないので、私娼である萩は違法でも脱法でもない売春婦である。

「この前の会議から何一つ進展してないじゃないですかィ。仕事しろよ土方コノヤロー」
「ぶっ殺すぞ総悟テメェ」
「ってか、なんでまたそんな女を捜すだなんてくだらねーことするんです? 私娼なら法に触れちゃいねーんだし、別にこんな大事にする必要もないでしょう。しかも幕吏お気に入りと来ちゃあ、俺たちの出る幕ありませんぜ」

はー、くだらねえやと沖田は溜息を吐く。

「顔も分からねー、どこにいるのかも分からねー、そんな女を捜すんですかィ」
「幕吏と攘夷志士がそいつの顧客にいるんだ。そいつがどっち側の人間なのかはっきりさせとかねーと、色々危ねーだろ」
「ああ、もし敵さん方だったらハニートラップ的なやつにホイホイ踊らされちゃうわけですねィ。……まあ、夜のお遊びに踊り狂ってる狸野郎は股間でもなんでも食いちぎられちまえばいいのに」

よっこいしょ、と沖田は腰を上げて肩を回す。
沖田が部屋を出たのを口火に幹部たちは一人また一人と仕事場へ戻っていった。

彼は気乗りしないまま屯所の門を出て、人混みの中へ溶けこんでいく。
周りの人と歩くペースを合わせながら、街行く人々の会話の中で目的の情報が得られないかと聞き耳を立てた。

「萩ねィ……」

沖田は顔も知らない娼婦の姿を想像した。
市井の人は疎か、攘夷志士や幕吏さえも骨抜きする女を、
わざわざ法の目をかい潜ってまでこの江戸で娼婦として身を売る女を――。
彼は興味が湧いた。ただ純粋に、その女に逢ってみたいと思った。

しかしそう思わせること自体がその女の手管だと思えば、なんだか自分も手玉に取られている気がして良い気はしない。
彼はひとり、苦虫を噛み潰したような顔をした。


すると彼の目の前には見慣れた男の姿があった。
白地に青波の模様が描かれている着物の半身を着流し、レザーのようなズボンを黒いブーツに押し込んで気怠そうに歩く銀髪の男だ。
その男の隣には、いつもの眼鏡の少年もチャイナ服を着た少女もおらず、その代わりに薄い蜜柑色の小袖を着た小柄な女が肩を並べて歩いていた。

「おーい、万事屋の旦那!」

前方から手を振れば、男はゆっくりと手を挙げた。

「やあ、総一郎君」
「総悟です、旦那」

お邪魔でしたかィ、と男女が仲睦まじく談笑している中に悪びれもなく入っていった沖田はそう聞いたが銀髪の男、坂田銀時は「アホ言うな」と否定した。

沖田は見たことがない目の前の女を一瞥し、銀時に二人の関係を訊ねる。

「旦那も隅に置けないですねィ、この前隠し子騒動があったのに懲りずにまた新しい女に手を付けたんで?」
「ちげーって言ってんだろ。この前のも隠し子なんかじゃねーし、こいつもそういうのじゃねーし」
「ふーん。……で、その御仁はどちらさんです?」

「俺の昔馴染みの○○だ。……まあ、なんだ、口煩え幼馴染ってとこだ」

○○と呼ばれた婦女は沖田に向かって頭を下げ、「いつも銀時がお世話になっております」と軽く挨拶をした。
彼女の隣では、「お前は俺の母親か」と銀時が呟いたが、横で聞こえる小言に無視を決め込んだ○○は、少女のような背丈だが凛としていて、どことなく漂う気品のある色気を感じさせながらその目に沖田を映した。

「で、こっちがポリ公の仮面被ったサディスティック星の王子の沖田総一郎君」
「総悟です、旦那」

本日二度目のボケをかました銀時にすかさずツッコミを入れる沖田に○○は自然と頬を綻ばせた。

「ところで旦那、ちょいと聞きたいことがあるんでさァ」

萩っていう娼婦を知ってやすか?
沖田がその言葉を口にした瞬間、○○の肩が僅かに跳ねた。
それを見逃さなかった彼は静かに口元を緩める。

「真っ昼間から娼婦のケツ追っかけてんのか、暇だねえ真選組も」
「いやー、これも立派な仕事ですぜ。なにせその娼婦、攘夷志士はおろか幕臣さえも手玉に取ってるらしくてねィ、ちょいと事情聴取ってとこでさァ」
「なんだ、一丁前に女遊びでもするのかと思ったぜ」
「そんなにイイ女なら逢ってみたいですがね」

残念だけど俺はそんなイイ女知らねーな、と銀時は右手を挙げ脱力気味に手を振った。

「まあ頑張れや。行くぞ○○」

そさくさと足を進める銀時を追いかけるために○○も沖田に一礼して小走りでその場を後にする。

沖田は振り返り、並んで歩く二人の姿をしばし眺めた。



 



***
「もしもし土方さん? あの女見つけました。でも顔割れましたーすいやせん」

夢主喋らない、なんだこれは。
銀魂だって主人公出てこない話あるし……これもこれで……。
でもこれにより真選組との絡みが出来るようになったのではないかと。

2014/03/17
2014/03/18修正
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