小説 | ナノ


  君似のやや子


けたたましいノック音が静かな家内に響く。
引き戸はがたがたとその身を震わせ、突然の来客を告げた。

「おい! ○○!! ちょ、早く!! 起きろおお!!」

眠気眼で羽織を引っ掛け、ある程度の着衣の乱れを正し、引き戸を開ける。
○○は明け方に客を見送り、太陽が高く昇るまでもう一度眠ろうと布団に入ったばかりだった。

『……はい、どちら様で?』
「てんめえ、いつまで寝てんだ。いい加減起きろ」
『……』

来客者の顔を見て、無言で引き戸に手を掛け閉めようとする。
すかさず銀髪の男――銀時はブーツを滑りこませて、それを阻止した。

「○○ちゃんお願い! そのお目めかっ開いてこの子見てぇ!!」
『この子?』

銀時をよく見てみるとその腕には彼と同じ銀髪猫っ毛の赤ん坊が抱かれており、ふてぶてしい顔をして、言葉にならない声を発しながらまるで母親に向けるように両手を伸ばしていた。

『銀時にそっくり。どこで作ってきたの?』
「ちげーよ! 頼むよお前まで変なこと言うんじゃねえ! これ書いたのお前じゃねーんだな、ちげーよな」

「あなたの子供です責任とって育ててください」と書かれた置き手紙を目の前に叩きつけ、銀時は返答を待った。
○○はその手紙と赤ん坊をまじまじと見つめ、まだ覚醒していない脳をなんとか働かせる。

『私まだ子ども生んでないけど』
「そうだよな、ハハハ、そうだよな。はあー、お前じゃないとしたら……」
『で、どこで拵えてきたの? ってか相手居るのに私のとこ通ってたわけ? 奥さん可哀想……』
「ちげーって言ってんだろ!! 怒るぞホントに!」

あんまり大きな声出さないの、と○○は銀時の手から赤ん坊を抱き上げた。
赤ん坊は○○の腕に抱かれ、安心したようにその身を任せており、○○は赤ん坊の柔らかい頬を指で優しく突いたり、小さなモミジのような手を指先で撫でたりしながら、必死に弁解する銀時に耳を傾ける。

「朝、店の前に置かれてたんだって。俺はこんな間違いしねーよ、そこら辺の女に俺の子生ませね―っての」
『こんなにそっくりなのにねー』

赤ん坊と銀時を見比べても、見間違うことがないほど似ており、親子と言っても差し支えないほどだった。
その銀色の猫っ毛を優しく撫でてやれば、気持ちよさそうに目を閉じる。

「黙れよホント。なんなの、妬いてんの、ねえ、妬いてるんでしょ」
『……松陽先生に見せたら孫ができたって喜ぶんじゃない?』
「ねえ、やめてくんない? ちげーって言ってんじゃん!」

あーもうめんどくせえな、と銀時は玄関の中に入り後ろ手で引き戸を閉める。
外部を遮断したところで、赤ん坊を腕に抱いている○○ごと両手で抱きしめた。

「俺はお前にしか孕ませねえし、子も生ませねえ。それに遺伝子操作してでもサラサラストレートの子種植え付けるっての」
『嘘ついたら?』
「パイプカットでもなんでもしてやらあ」

ほんの少しの間だけ家族になった雰囲気を味わった後、○○は赤ん坊を銀時の腕に返した。

『この事件、解決したらちゃんと報告に来ること』
「はいはい」

最後にもう一度、赤ん坊の頭を撫でて両手が塞がっている銀時のために引き戸を開けてやる。

『本物のおかーさん、見つかるといいね』

玄関先まで出て、擬似親子を見送った。
返されることを望まずに手を振ると、大きな腕に抱かれた小さな手が僅かに振り返しているように○○には見えた。

まるで夫を見送る妻みたいだと娼婦に在らざる想像をする自分に溜息を吐く。

『私はサラサラストレートじゃなくてもいいけどな……』

小さく呟いたその言葉は、引き戸の閉まる音に掻き消された。

 



***
51話の勘七郎と銀さんの話。
都々逸シリーズは色々危ない言葉がいっぱい。

『行ってらしゃい、お父さん』
「おうよ、ほらアホガキ。かーさんにバイバイしろバイバイ」

2014/02/24

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