小説 | ナノ


  うちは家のお使い―サスケ篇―


太陽が照りつけ肌をジリジリと焼く夏に替わり、涼しい風が吹く秋になった。
あんなにも憎らしかった太陽が今はぽかぽかと辺りを柔らかく照らしている。


それはとある里の隅に住む一人の少年の話。


「あら、大変ー!」
「かーさん、どーしたの?」
「イタチがお弁当忘れて行っちゃったのよ」

もうそろそろ昼時になる。
少年サスケは3歳2ヵ月、あと少しで3ヵ月だ。
うちはの家紋がプリントされている子供服を着込んだ彼は、母の焦った声を聞き付け縁側から居間に向かった。

「サスケ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なぁに?」
「イタチにお弁当届けてくれる?」
「……ひとりで?」
「そう、サスケ一人で」

「やだ」

全てはミコトが仕組んだ計画だった。
その名も「ひとりでおつかいできるかな?―in うちは家―」である。
うちは家では子供が3歳になると時期を見計らって、お使いに出す。
ほとんどが一族の居住区域で行われるため、誘拐などの心配はいらないからだ。
そして、本日うちは家第三回目となるお使い計画が決行されようとしていた。

「かーさんもいこ!!」
「母さんはお昼ごはんの準備しなくちゃいけないの、父さんは仕事だし、姉さんは任務でしょ?」
「やぁーだぁー!」

サスケは頑なに拒み続け、座椅子に掛かっていた膝掛けに包まった。
蓑虫の時期はまだでしょ?とミコトは心の中でつっこんで、膝掛けを剥がしにかかる。

「ねー、サスケー行ってきてよー」
「やだ!!」
「じゃないと兄さん、お昼食べれないんだよ?」
「うー」
「兄さんお腹減って倒れちゃって、もう帰ってこれないかもしれないなー」

毎回恒例の「倒れちゃうよ作戦」である。
第一回、姉○○がお弁当を届けるお使いの際も(その時は父フガクに届けた)「お父さんお腹減って倒れちゃうよ」と言ってお使いに出したのである。

「じゃぁいく」

ぽつりとサスケが呟いた。
彼はのそのそと膝掛けから這い出てお気に入りのリュックを取りに行った。

「本当!?ありがとう!」

ミコトはサスケからリュックを受け取ってイタチの弁当を入れる。
財布から紙幣を出して、首掛け財布を準備した。

「サスケさー、この前おばあちゃんとおじいちゃんから美味しいブドウ貰ったよね?」
「うん、もらったー!」
「それのお返ししたいんだけどさ、おばあちゃんたちが好きなお煎餅買って届けてくれないかな?」
「にーさんのおべんとーは?」
「お煎餅を買って、兄さんにお弁当届けて、その帰りにおばあちゃん家に寄ってお煎餅届けるの。大丈夫?」

ミコトはメモ帳を取りだして簡単な地図を書く。
サスケはそれを見ながら頭に叩き込んだ。

「わかった!」

元気に頷いたサスケに頼もしさを感じながら、ミコトは先程自身の財布から出した紙幣を首掛け財布に入れる。

「お財布にお金入れておいたからそれで払うのよ?」
「うん!」

お気に入りのリュックを背負い、財布を首から下げたサスケは先程と打って変わってやる気に満ちていた。
一安心したミコトは玄関先まで息子を見送って引き戸を閉める。
あとは、サスケが無事にお使いを遂行させて家に帰ってくるのを待つだけだ。



「おっせんべー!おっせんべー!」

上機嫌なサスケは足取り軽くうちは煎餅と書かれた看板の店を目指す。
この店はうちは姉弟が初めてお使いをする際に必ず使われていて、今回も例外ではなく、ミコトは予め店を切り盛りする店主夫婦に「今年も宜しくお願いします」と告げていた。

「おっせんべー!」
「あら、サスケちゃんいらっしゃい」
「こんにちは!」
「サスケちゃん、お母さんは?それともイタチちゃんかな?」
「ううん、ひとりできた!」

店に入ると店主のおかみが人の良い笑みを浮かべながら出迎える。

「ひとりで来たの!?あらぁ、すごいわねぇ!」
「おばあちゃんがすきなおせんべーかいにきた」
「そうかいそうかい、サスケちゃんのおばあちゃんはどのお煎餅が好きなのかな?」
「うーんとねー、これ!」

祖父母の家に行くと必ず出されるお煎餅があった。
棚に常備されているらしく、勿論この店のものである。
サスケがザラメ煎餅がたくさん詰められた袋を指差し、「あぁ、これかい」とお上は頷いた。

「毎度ありね、手提げ入れてあげるからちょっと待っててね」

サスケは首の財布から母親に渡された紙幣を出してお上に渡す。
はいよお返し、とお上はお釣りを握らせそれをサスケが財布に入れるまで待つ。
彼女はサスケがお釣りを無事に財布に仕舞ったことを確認すると、煎餅を入れた紙袋を持たせた。

「気を付けてね」
「うん、ありがと!」

バイバイと手を振ってサスケは煎餅屋を後にする。
さっきよりも増えた荷物を気にも留めずに彼は次なる目的地を目指す。
秋風がひゅるりと吹いた。すると数羽の鴉が天高く飛翔する。飛びたった場所はどうやら森の方かららしい。

「にーさんのおべんと、とどけなきゃ」

商店街を進むとそこには裏道があり、森に抜けられる。
色の変わり始めた木々の葉が彼を迎え入れた。
落ち葉を踏むとガサガサと音が鳴る。
サスケは少し楽しくなった。
ふと自分の目的を思い出し森の奥に入っていく。
森はあまり入り組んでいないので、道に迷うことなく大きな一本道を進んだ。

(ちょっとこわい…)

ここへは一人で来たことはなかった。
いつもイタチや○○と一緒に来るのでサスケ一人で来るのは初めてだった。
昼前だと言うのに生い茂る木々のせいで森の中は薄暗い。
時々聞こえる鴉の鳴き声が彼を強張らせた。

「にーさん!!」

見覚えのある背中に呼び掛ければその人物はゆっくりと振り返った。
あぁ、安心した。そんな表情で安堵の溜め息を吐く。

「サスケ、どうしたんだ?」
「おべんとーもってきた!」
「弁当?……あぁ」

わざわざ持ってきてくれたのか。
イタチはしゃがみ、弟の視線と合わせながら弁当を受け取った。

「ありがとな」

わしゃわしゃと頭を撫でられるサスケからは自然と笑みが零れる。
イタチはサスケの左手に握られた紙袋に一瞬視線を落とし、今朝母から聞かされた計画を思い出した。

「サスケ、一人で来たのか?」
「うん!」
「迷子にならなかったか?」
「ならなかった!」
「そうか、よかった。次はどこか行くのか?」

「…あ、そうだ!おばあちゃんちいかなきゃ!」

サスケの次の目的地が彼の中で設定されたことを確認したイタチはそっと弟の背中を押す。

「気を付けて行くんだぞ」
「うん!にーさんもしゅぎょうがんばってね!」
「あぁ」

出口まで一緒に行こうか、と聞いてもサスケはいい!の一点張りで仕方なしにイタチはその場で手を振った。
何度か振り返った弟にその都度手を振り返し、ようやく彼が見えなくなった。



「おばーちゃんちー!おじーちゃんいるかなー?」

森から祖父母の家はそんなに遠くは無い。
九尾の妖狐襲来後、うちは一族は里の一画に集められたがそのお陰か祖父母の家も近くなったのである。

太陽がほぼ真上に昇った。
ぐぅとお腹が鳴る。今日の昼ご飯は何だろうか、トマトあるかな、あったらいいな。そんなことを思いながら足を動かすと 武家屋敷のような風貌の家が見えてきた。
祖父母の家である。
武家屋敷といってもそこまで大きくないが、一応祖父が木ノ葉警務部隊OBのまとめ役であるためか、それなりに広い土地があてがわれていた。

「おばあちゃん、おじいちゃん、きたよー!」
玄関で呼んでみる。
すると、縁側の方から声がしたので玄関から庭先に回った。

「おばあちゃん!」
「あらぁ、いらっしゃいサスケ」

縁側に腰掛けていたのは祖母で先ほどの声も彼女のものだろう。
祖父は木ノ葉警務部隊の現役重鎮らとの会議のため、朝から家を空けているらしい。
足の悪い祖母は暖かい日差しの下、飼い猫の横で毛糸を編んでいた。

「おばあちゃんこれ!」
はい、と手土産の煎餅を渡した。

「まぁまぁ、どうしたんだい」
「ぶどうのおれい!」
「あら、ありがとうね。わざわざ持って来てくれたのかい?」
「うん!ひとりできた!」
「サスケ一人で来たの?あらぁ、すごいわねぇ」

今日はいっぱい褒められる日だなぁ、と思いながら出されたお茶を喉に流す。
穏やかな天候のせいか、疲労のせいか、安心したせいか今までぱっちりと開いていた瞼が落ちてくる。
それを促すように祖母はサスケの頭を撫でた。

「疲れちゃったかね、お疲れ様だねぇ」

祖母の声が遠くに聞こえる。
撫でられる頭部に心地好さを感じながらサスケは意識を手放した。
眠りに落ちた孫を縁側に寝かせ、よいしょと立ち上がり和室から薄手の掛け布団を持ち出す。赤茶の紅葉が描かれたそれはその場にすぐに馴染んだ。


「さてどうしようかね」


このまま孫を寝かせておくのもいいがいつまで経っても帰ってこない息子にミコトが心配するかもしれない。
祖母は以前から足が悪かった。
第三次忍界大戦からまた少し悪化した。
ゆえにサスケを負ぶり息子夫婦の家まで送り届けるのは難儀だ、夫に頼もうかとも考えたがいつ帰ってくるか分からない。
近所の一族の者に行かせようか、とサンダルを引っかけ表に出てみる。
今は昼時、昼食の準備をしているのか表に歩いている人は一人もいなかった。



◇◇◇



今日の任務は早めに終わった。元々今日は午前中だけだと聞かされていたため、任務からの解放感を抱きながら帰路につく。
離散場所はいつもと違った。今日の離散場所からだとうちはの門から帰るよりも祖父母の家の前を通って帰った方が近い。

『お腹すいたー』

家々からは良い匂いが漂って来る。
少し急ぎ足になりながら自宅に向かった。
誰もいない表通りの道、あと少し行けば祖父母の家だ。
すると遠目で人影が見えた。

『おばあちゃんかな?』

確信はできないが、見覚えのある雰囲気と歩き方が祖母に似ていた。
駆け足で近付くと確信に変わる。

『おばあちゃーん』

「おや、○○!」

ひょいひょいと手招きをされた。
祖父母の家の縁側に通されると、そこには紅葉を纏った末弟が眠っていた。
祖母の言いたいことは大体理解できた。

「疲れちゃったみたいでね、悪いんだけど○○連れて帰ってくれるかい?」
『うん、いいよ!』

サスケのリュックを前で持ち、サスケを背負う。
大丈夫かい?と問う祖母に笑顔で応え、祖父母の家を後にする。
背中で寝息を立てる弟の重さを実感しながら一歩また一歩と歩みを進めた。

『おつかい行ったのかな』

そういえば、イタチが初めておつかいに行った時も一緒に帰ってきたなぁと思い出す。
それにしてもサスケはこんなに重くなったのか。
7歳下の弟は少し前まではまだ赤ん坊だったのに。
気が付けば言葉も喋るし、会話も成り立つようになった。
泣いて表現する時期はいつの間にか終わっていたようだ。


「んー」
『サスケ、起きた?』
「んー。あ、ねーさんだ!」
『おばあちゃん家で寝ちゃったの?』
「うん、おれね、きょうおつかいいったの」
『一人で行けた?』
「うん!んとねー、おせんべーかってー、にーさんにおべんととどけて、おばあちゃんちにいったの」
『そっかー、えらかったね』

目が覚めたサスケと話していると、自宅は目の前だった。
ガラガラと引き戸を開けると母が走って出迎えた。

「○○!サスケを見なかった!?まだ帰ってこないの!」

見るからに焦っている母にたじろいでいると、サスケはそんな母や姉を尻目に○○の背中から顔を出し「かーさん、ただいまー!!」と元気に手を振る。
よいしょとしゃがみ、玄関先にサスケを降ろすと上から母の安堵の溜め息が聞こえた。
居間からは「サスケ、おかえり」というイタチの声がする。

「はぁー、よかったー」

無事に帰ってきたサスケを抱き締める母の横を抜けて○○は洗面所に行き、手洗い嗽を済ませる。


「かーさん、おなかへったーー!!」


元気なサスケの声が洗面所にも響いた。
今日のご飯は何だろう、トマトが多そうな気がするなぁ、と○○は洗面所を後にした。




***
サスケ誕生日記念。
テレビで「はじめてのおつかい」の予告CM見てたら書きたくなりました。
サスケの祖父母や家の設定は完全オリジナルです。
幼少期のサスケはキャラ崩壊してても大丈夫な気がするから楽でいいですね!
そのうちイタチ篇とお姉ちゃん篇も書きたい。

山無しオチ無し小説ですいません。
そして相変わらずの名前変換の無さ。
今回の主人公はサスケなので…多目に見てください!

サスケ、誕生日おめでとう!

お読みくださいましてありがとうございました。


2013/07/23
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