01:上月佐助
私は枕の上に開いていた本を閉じた。
『……はい、おしまい。イタチは本当に上月佐助が好きなんだね』
「うん、すき!」
イタチは眠そうな顔をしながらへにゃり、と目尻を下げた。もう何度も読み返している『上月佐助の伝記』をイタチに返すと、彼は大事そうに枕の下にしまい自身の頭をその上に預けた。
まだ字も満足に読めないイタチに読み聞かせてあげるために忍者学校(アカデミー)の図書室で何気なく借りてきた本を気に入ってくれたのは嬉しいが、返却後、お母さんに頼み込んで同じものを買ってもらうほど彼の人生に影響を与えるとは思わなかった。
『さて、もう寝よう。イタチ』
あれから毎晩の日課になった読み聞かせも終わり、私は弟が掛け布団をかけたのを確認して天井から下がる紐を引っ張った。電灯がオレンジ色の豆電球だけになり、一気に部屋が暗くなる。
私も布団に横になると、まるで条件反射のように私の瞼は徐々に重くなっていった。
「ねぇさん、ねぇさん」
イタチが呼ぶ。
なあに? と横を向くと布団を口元まで引き上げたイタチが布団の下であくびをしていた。
「……おやすみ」
『うん、おやすみ』
イタチは掛け布団を頭の上まで伸ばし、布団に覆われるようにして眠りに就いていった。彼の癖だ。息苦しくないのかな、と思いながら私も体を丸めて眠る体勢に入る。
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