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  13:中忍試験(後)


 第一の試験に合格し第二の試験に臨んだ下忍は私たちを含め全部で三十九人、十三チーム。そのうち、この試験に合格できるのは多くても六チーム。しかし実際に制限時間内に二巻の巻物を揃えて塔に到着したのは四チーム……十二人だった。
 第二の試験終了が試験官によって言い渡され、無事通過した私たち十二人は塔内闘技場へと向かった。すれ違う医療班の人たちが忙しそうに運び込まれた下忍たちの治癒に当っている。演習場から回収された不合格者たちの殆どが凍死寸前の低体温状態だったらしく、白服を着込んだ人たちが右へ左へ動いているのを横目で見ながら、大きな手の石像がある闘技場へと足を進めた。

「通過おめでとう。今回の試験から適用されるようになった〈暫定中忍〉まであと一歩だ、頑張ってくれたまえ。それでは火影様より第三の試験についての説明がある。心して聞くように」
 
 闘技場の上座には中忍試験の試験官は勿論、カカシ先輩を始めとした各班の担当上忍や伝令役として口寄せされた中忍、そして三代目火影様がいた。
 私語など許されないほどの緊張感の中、多くの目が私たちを見定めていた。
 火影様が今回から適用される新たな階級昇格システムと中忍選抜試験を行う目的、来年夏に行われる本試験への成績評価方法などを説明した後、第三の試験開始の宣言がなされた。

「これから第三の試験、第一回戦を行う。火影様のお言葉に補足すると、今から行われる第三の試験は個人戦且つ、予選ではなく本選である。どちらかが死亡もしくは負けを認めるか、明らかに勝負がついたと審判が判断するまで実践形式で対戦してもらう。この試験で今回の中忍試験は一旦終了すると考えていい。……健闘を祈る」

 闘技場の壁が反転し、電光掲示板が姿を現した。個人戦のため、ランダムで決めた対戦者名をそこに表示されるらしい。
 早くもカタカナで二人の名前が表示された。

「対戦者以外は上の観戦ギャラリーへと移動してください」

 第二の試験・試験官から第三の試験の審判へと進行が引き継がれ、私たちは階段で闘技場の上部に設置されたギャラリーに移動した。私たちの背後に人の気配がすると思ったら、先程まで上座にいたカカシ先輩が瞬身の術を使い飛んできたようだ。

「いやー、まさかここまで残るとはね……びっくりびっくり。あと一踏ん張りだな、お前たち」

 気怠そうで眠そうな先輩は私たちを褒めるわけでもなく、貶すわけでもない労いの言葉を掛けてくれた。

「ちぇー、オレたち頑張ったのに先輩褒めてくれないのー?」
「次の対戦で勝ったらいっぱい褒めてやるよ、ササメ。シュンと○○もな。だから、気を抜くなよ、これから対戦する奴らはお前たちより年上でこの試験を通過してきた実力の持ち主なんだからな、……分かったね、ササメ」

 そんな会話を私は背中で聞いて、こくりと頷いた。そして再び視線を対戦中の二人に移す。闘技場の床にはクナイやら手裏剣やらが散乱していて、二人共肩で息をしている。もう手裏剣を打つのさえやっとの状態で、両者が立つ中間で手裏剣は相殺され、また一つと二つと足場を埋めた。
 見る限り、二人共遠距離攻撃型の忍のようで最初こそコントロールされた剣舞のような手裏剣さばきだったが、今では暴投が激しい。


 試合開始から三十分が経過した頃、ほぼ同じタイミングで闘技場の二人は膝から崩れ落ち、その場に倒れた。結果はチャクラ切れによりダブルノックアウト、よって引き分け。
 受験者の回収と闘技場の整備が終わった頃、「お!」と横にいたシュンが声を上げた。

「頑張れよ、○○」
「オレたちの中じゃ○○が一番始めだったかー! 頑張れー!」

 掲示板を見ると私の名前が表示されていた。瞬時に鼓動が大きく波打つ。緊張から来るものだった。
 緊張感とちょっとした高揚感。負けたくない、負けない、勝ちたい。私の中にそんな好戦的な感情を持ち合わせていたことにも驚いたが、ルール一切無し受験者の死さえ不問の実戦への恐怖を抑えこむほどの〈何かの感情〉が私を支配していた。
 一度だけ似たような感覚に陥ったことがある。全身を巡る血に突き動かされるような、そんな感覚。似ても似つかない……いや、生死を掛けたという点では類似しているが、初めて人を殺したときの、あの感じに似てる気がした。

『行ってくるね、応援してて』

 私はギャラリーから階段を下り闘技場の中心に移動した。
 下からギャラリーを見上げると、私たちの班だけ他の班とはどこか違って見えた。私たち三人と他の受験者の年齢や身長はおろか、カカシ先輩までも他の担当上忍に比べて圧倒的に若いので、兄弟で試合観戦に来たみたいだ。上からは声援が投げられる。

「第二回戦! うちは○○ 対 都ニシキ……始め!」

 相手は身丈も年齢もカカシ先輩と同じくらいの男の人で、開始の合図と共に体術を仕掛けてきた。前の試合で対戦していた人たちとは異なり、近距離型の戦い方をするのかもしれない。私はその体術をいなしながら次の行動を考えた。脇腹に蹴りを入れるが、体を反らされあまりダメージを与えられなかった。
 どうやら腰に差している忍刀を使うようで、広く間合いを取って彼は抜刀した。私は手裏剣を打ち、反応速度を見る。連続して異なる場所へ手裏剣を打ったが難なく打ち落とすところを見るとそれなりの使い手だと推測できた。

「近付かないと当たらないよ!」

 男の人が刀を構えて言う。
 うん、分かってる。私も丁度今近付こうと思っていたの。声には出さないが心で返事をした。クナイを構え相手に向って躊躇いなく走りこんで行くと、会場のざわめきが聞こえた。ほぼ全てが私の行動を危険視するものだったが、気になどならない。

『えい!』

 肉薄したクナイは刀で受け止められる。押し返す力はやはり向こうのほうが強くて剣先がどんどん下がってくる。一瞬私が力の均衡を崩しクナイを押す力を緩めると彼に僅かに隙ができ前方にふらつく。私はすぐさましゃがみこみ、右足にチャクラを溜めて思いっきり内側に払った。ぐらつく相手がバク転をして体勢を立て直したところを狙ってチャクラを流したクナイと手裏剣を打った。

「無駄だって言って……痛っ……」

 彼は手裏剣もクナイも刀で打ち落とした。しかし鮮血が飛び散り、顔は痛覚により歪んでいる。再び手裏剣を投げ今度はすぐに走り出し、近付いた。
クナイを右手に持ち、手裏剣を払い落としたばかりの刀を抑えチャクラを溜めた左手で刀を構える右手首に手刀を落とす。
 床に忍刀が音を立てて落ちた。否、彼が落とした。
 自由の利かなくなった右手を震える左手で抑えながら彼は私を見ている。その震えは恐怖から来るものなのか、何なのかは私には分からない。おそらく自分の右手が動かないことの理由が分からず困惑しているのだろう。そのことに対する恐怖なのかもしれない。
 都ニシキ――私の対戦相手は忍刀を使い、骨太で打撃力もある。しかし自分が有利な状況だとしても次の一手が出ない。私のクナイを刀で受け止めた時だってそうだ。
力で押し切って私の体勢を崩し追撃することもしなければ、その刀の有効範囲を活かし自ら切り込んで来る気配も無い。
 もしかしたらカウンター攻撃を得意とする打撃(体術)タイプで……いや、違う。彼は近距離攻撃型と見せかけた遠距離攻撃型なのかもしれない。前の遠距離攻撃型同士の戦いを見て、あれだと決着がつかないと考えたのだろう。だから、最初に体術を打ち込んできたのだ。刀をうまく刀として使用せず、手裏剣を打ち落とすだけのものとして使っているところを見ると、近距離の戦い方には慣れていない、おそらく班内でも援護射撃のような戦い方をする忍なのかもしれない。

(それなら……!!)

 近距離攻撃に持ち込むまでだ。
 私は彼が落とした忍刀を拾い持ち、もう片方の手に集めたチャクラを投げた。
 チャクラを刃状にし、通常医療忍術を施術する際に使用する通称〈チャクラのメス〉を投げただけだが、彼は見えない刃に肉を割かれ動揺し狼狽えていた。

「かまいたち!?」
『……いいえ』

 私は刀を構え、瞬身の術の印を結ぶ。
 飛来先は――相手の頭上。
 重力に従い私は相手の両肩に着地した。そのまましゃがみ、奪った刀の切っ先を彼の首筋に当て、

『続ける?』
 
 試合続行の意思を問うた。
 利き手である右手の筋を切られた彼は小さく「いや……」と言い、少しでも首を動かせば刃に触れてしまうのでそのままの体勢で審判に敗北を認める宣言をした。

「第二回戦勝者、うちは○○!」

 私はそれを聞き、ニシキさんの肩から飛び降りた。刀も返して医療班に連れられ治療室に向かう彼を見送った。
 
 勝った。
 
 ふと上を見上げると、シュンとササメが大きく手を振っていたので私も「やったよ!」と振り返した。
 ギャラリーに戻るとササメとシュンはハイタッチで迎えてくれて、カカシ先輩は頭を撫でてくれた。

「お前が暫定中忍第一号だよ、お疲れ様。ササメもシュンも○○に続けよ」

 
 その後、ササメとシュンは続けざまに試合を行い、カカシ先輩の言葉通り彼らもまた、夏の本試験出場を決めた。


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再執筆:2015/11/16
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