小説 | ナノ


  11:成長


 私たちは下忍になって里から任務が与えられるようになった。とは言っても、まだまだ新米忍者な私たちに振り分けられるのはDランクと呼ばれる一番簡単な初心者向け任務で、一番種類と量が多いが、最近は専ら里の修復作業だ。
 瓦礫の運搬や建築中の家屋に木材を運んだりと、言わば雑用だった。
 至る所でこの春、下忍に昇格した新米忍者たちが私たちと同じような作業をしている。

「○○、次はこれを三軒先まで」
『了解』
「シュンセツとササメはちょっと重いけど、これをそこの二階部分まで」

 ここ数週間、ずっとこのような作業をしているためササメがカカシ先輩に抗議した。確かに里の復旧は大切だとは思うが、特例でアカデミーを卒業して下忍になってまですることなのかと彼は真意を突いた。
 私たちは七歳で卒業したことを鼻にかけているわけではないけれど、雑用作業をさせるための〈特例卒業〉なのかと私もシュンセツも思ったし、彼の言うことはもっともだとカカシ先輩は困ったように毎回言葉を濁す。
 確かに、つい数ヶ月前までは隣で勉強していた同級生たちが今もなお学校で忍術を教わっている間、私たちは学校の外で里の復旧作業をしているのは些か不満や意味を問いたくなるのも分からなくない。
 カカシ先輩も「里からの命令だからねえ……」と私たちを納得させるしかない。




「退屈そうだな」

 夕暮れで空が鮮やかな橙色に染まる中、私の前に長い影が伸びた。
 逆光でここからでは顔は伺えないが、他の誰でもない私に話しかけていることだけは分かった。
 区画整理のために新たに作られたうちは一族の集落にいるということは、この人も〈うちは〉の人か――。

「ああ、すまない。オレはうちはシスイだ」

 うちはシスイ。
 私よりも高い背で、鼻が丸い。額には木ノ葉の額当てがあって、その上に生えている髪はくるんとカールしていて柔らかそうだった。
 そして何より、彼の名前には聞き覚えがあった。

『……イタチの修行に付き合ってくれてるシスイさんって、アナタですか?』
「修行に付き合うっていうか、オレも一緒に修行してるってかんじだけどな。そうだぜ」
『やっぱり。……いつも弟がお世話になってます。姉のうちは○○です』

 私が頭を下げると、シスイさんは驚いたような顔をしていた。どうしたのだろうと思っていると、
「い、いや。イタチとは大違いだと思ってな……何と言うか、お前の弟はいい意味でなかなかに生意気だからな、姉弟でここまで違うのかって驚いたんだ」
 と、彼は言った。
 
 イタチが生意気、というのが私にとっては意外だった。
 それからすぐ、私は弟の無礼を謝ったがシスイさんは「オレはあいつを歳の離れた友だと思っているから、気にしなくていい」と言ってくれた。

「お前の話は時々イタチから聞く。だからお前とも友達になりたい。親戚のお兄さんじゃないぞ、友達だ」

 そう言って、シスイさんは同じ一族なのに今日初めて会った私に向かって笑顔を向け、手を差し出した。私は躊躇う間もなくその手を握った。そうさせるような魅力がある人だと思った。
 
「よし! じゃあ“さん”と“兄さん”は無しな! 敬語も無しだ。友達だからな。よろしく頼むぜ、○○」
『よ、よろしく……シスイ……』

 照れくささと、本当に年上に向かってこんな話し方でいいのだろうかという不安が最初こそあったが、話していくうちにつれ、私が〈友達〉と話すのと同じように彼と接していることに気付いた。

「ああ、飛び級で下忍になったのにやらされることが里の復旧ばかりで……ってか」
『うん、必要なことだとは分かってるんだけど、それって特例で下忍になってまですることなのかな……って』
「まあ、確かにな。……でも、オレもお前もツいてる方だと思うけどな!」
『どうして?』
「だってもうちょい下忍になるのが早かったら、戦争に駆り出されてただろ? オレもその時はまだ下忍になったばっかりだったから戦場に送られることは無くて……まあ、後方支援みたいなことはやったけどな、後方支援の後方支援って感じだったけど。下忍なんて最初の方はボランティアみてーなもんだよ。しかも里がこんな有様じゃあ」

 シスイは「そのうちいろんな任務に追われるようになると思うぜ」と言い、私に手を振って分かれ道を左に行った。
 去年の十月に起きた九尾襲来から半年以上が経った里は、総力を上げて復旧作業にあたっていることもあり、襲撃前と同じとはまだ言えないものの、崩壊した部分の大半の修復は完了している。
 そう思うと、私は日々渡される代わり映えのしない任務の終わりが見えてきたような気がして自然と足取りが軽くなった。


「サスケ、あんまりそっちに行くんじゃない」

 家の引き戸に手を伸ばすと、そんな声が家の中から聞こえてきた。
 戸を開けると、最近ハイハイができるようになったサスケが玄関から居間へ続く廊下にいた。

「えー!」
『ただいま、サスケ』

 サスケの転落防止のために玄関に立てられた柵を跨いで、彼を抱き上げる。すっかり重くなったサスケは私の前髪を引っ張り、私のことを指すのだろう「えー、えー」という言葉を発する。きっとイタチに倣って「ねえさん」と呼んでいるのかなと思うと、とても愛らしく感じる。

『イタチも、ただいま』
「おかえり」
『今日、シスイに会ったよ。友達になった。一族間での友達っていうのも変な感じがしたけど、イタチが懐くのも分かる気がするよ』
「……ただシスイが馴れ馴れしいだけだ」

 シスイがイタチを「生意気」と言ったのも今なら理解できるような気がした。それと同時にイタチの「馴れ馴れしい」も理解できる気がした。どっちもどっちだなと思って私は笑った。

『いたたたた、サスケ! 髪! 髪抜けるからやめて!』

 イタチがサスケの手を開かせて私の前髪はやっと解放される。

「そういえば今日、サスケは立てるようになったんだ」

 そう言ってイタチは私の腕からサスケを抱き上げる。私はイタチがサスケを落としやしないかとハラハラしたがそれは杞憂に終わり、一度床に座らされたサスケはイタチの手を手摺代わりにして震える足でなんとか立ち上がった。
 心なしか「見て見て!」と言わんばかりの輝く目を向けてくるサスケは、イタチから手を離し、だっ、だっ、と一歩また一歩と踏み出し、――歩いた。

『すごい! サスケ! あんよできたんだ!!』

 嬉しさのあまり、サスケとサスケを抱き留めたイタチを抱きしめた。
 イタチもサスケが歩いたのは初めて見たようで目を丸くして驚いていた。


//


再執筆:2015/09/29
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -