小説 | ナノ


  evoL liveD


「○○ー、Devil様がお呼びよ」
『……私、配達員じゃないのにー』

○○の同僚であるケイラがヘッドセットを外しながら○○を呼んだ。
そして彼女は厨房に電話で受けた注文内容をを端末から送信すると、「いい男なんでしょー? 羨ましい」と席を立った○○に視線を移す。

『確かにかっこいい……かもしれないけど、人使いは荒いよ? なんて言ったってオペレーターの私に配達もさせるんだから』
「それもそうね、まあ気をつけていってらっしゃい。……あら、そういえば○○は今日もう上がりだったかしら」
『うん、だから配達行って帰ってきたら今日はお終い。次は明後日よ』

「それなら近いうちに会えるわね」とケイラはオペレーター室を出る○○に手を振った。
同僚と別れた○○は車庫から配達用のバイクを出して来、エンジンを吹かして機体を温める。
エンジンが無事に掛かったことを確認して、一度鍵を抜き、オペレーター用の服から配達員用の制服へと着替え、軽く化粧も直し、鏡で笑顔の練習をする。
しばらくすると「OK, all set!」というオーブン担当から声が掛かった。

リアボックスの中に出来立てのピザ(オリーブ抜き)を入れて、バイクに跨りスロットルを回した。



――ある日のことだった。
いつものようにオペレーター室では着信を告げるアラームが鳴り響く。

『はい、The One Pizzaです。ご注文をどうぞ』

通話ボタンを押し、対応を始めると低めの男性の声で「ピザをお願いしたい」という当たり障りもない一声が発せられた。
○○は端末を操作しながらその声に耳を傾ける。

『お名前よろしいですか?』
「Devil May Cryって言えば通じるか?」
『……はい、いつもありがとうございます』

Devil May Cry、そう言った電話の相手は常連も常連、ほぼ毎日ピザを注文する店内でも名の知れた客だったが、それでも○○が実際に電話で注文を受けたのは初めてだった。

「レディ、アンタはデリバリーは出来るのか?」
『え?』
「野郎のデリバリーはさすがに飽きたんだ。じゃあ、待ってるぜ」
『え、あの……お客様っ!』

通話が一方的に切られ、ヘッドフォンからは無機質な機械音が流れる。
○○は唖然としながらも端末画面の備考欄に「ドライバー指定」と書き記し、そこに自身のサインを入れて送信ボタンを押した。


慣れないバイクを運転しながら顧客名簿に記された「Devil May Cry」の場所に向かう。
昼間でも薄暗く、空気も淀み芳しくない臭いが漂うスラム街に出て、○○は彼の言う通りデリバリーに来てしまったことに後悔したのと同時にいつもここに届けている配達員に敬意を念を抱いた。

ガラの悪い男たちがギロリと女性ドライバーを睨んだ。
○○がもう帰りたい、と切実に思いながら目的地を探し、好奇な目に晒されながらも低速でバイクを進めていくと、ネオンの光で目的地の名が記された看板とそれが掲げられた建物が眼前に現れた。

『あ……あった!!』

砂漠の真ん中でオアシスを見つけたかのような感動に浸りながら○○は店の前にバイクを停め、扉をノックする。

『Hello ミスター、ピザのお届けに参りました』

店主は○○の声が聞こえていないのか、一向に現れない。
しかし諦めずに○○がノックと声掛けを続けていると、ガチャリとドアが開き、それと同時に爆音が彼女の耳を劈いた。

「おう、レディだったか。すまなかったな」

そう言って赤いコートを着た銀髪の大男――店主のダンテはジュークボックスを止め、○○を店内に通した。
玄関で事が終わると思っていた○○が戸惑っていると、

「そこの上に置いてくれ」

と、ダンテは店の最奥の机を親指で指した。

「まさか本当に来るとは思わなかったぜ。肝の据わったレディだ」

さも可笑しそうにケラケラと笑うダンテに○○は「あなたがそう注文したんでしょうが」という反論が喉から出そうになったが何とか堪えて口を閉じた。
ピザ屋内でこの客が「Devil様」と呼ばれているのを体現しているかのように、彼の店には壁一面に動物や見たこともないような異形の骸骨に剣が串刺しになって飾られている。

(カルトか何かの人かしら。それとも黒魔術的な……どっちにしろ危ない人だ)

出来る限り今後は関わりたくない人物だと認識した○○は、顔を引きつらせながらピザを机の上に置いた。
さあ帰ろう、と踵を返すと

「レディ、名前は?」
『――○○・△△です』
「○○か。いい名だ。これからはアンタが店にいるときはアンタが俺のピザを届けてくれ」
『……へ?』

○○にしてみればありがたくない言葉が店主から発せられ、彼女は茫然と立ち尽くした。
カツカツとブーツの音を鳴らしながらダンテは○○に近づいていき、○○のだらしなく開いたままの口元に手を伸ばすと、そのまま顎に滑らし軽く顎を持ちあげた。

『なっ……』
「OK? ○○」
『何が、ですか……?』
「アンタがこれから俺のデリバリー担当ってことだ、ま、嫌なら無理にとは言わねーが」

ダンテはその色素の薄いアイスブルーの眼で○○を見つめると、口元を歪ませた。
○○はその吸い込まれそうな瞳に息をのんだ。

「おいおいレディ。俺は別にアンタを取って食おうなんて思っちゃいないさ――まだね」

ダンテは○○の鼻の頭に軽くキスを落とすと、ポケットから幾らかの金を出し○○に握らせた。

「沈黙は肯定と受け取るぜ。さあ、もう帰りな。Devilに食われちまうぜ」

そう言ってダンテは○○を離し、店先まで送り出した。
○○は紅潮した顔もそのままに乗ってきたバイクに跨りエンジンをかける――。



『Hello Hello. Mr. ダンテ!』

ドンドンと扉をノックするも、それは形だけで実際にここの主がドアを開けるとも思えないため○○は慣れた手つきでピザを片手にドアを開けた。

「せっかちな客だな。まだ開店前だぜ」

行儀悪く机の上に両足を乗せて、タオルで濡れた銀髪を拭いている店主ダンテは閉じていた目を開き、来客を見やった。

「おう、待ってたぜ」
『……一体、どっちをかしら?』

悪戯っ子のような顔をして○○が問いかけ、机の開いているスペースにピザを置くとダンテは椅子から立ち上がり、机を挟んで前にいる○○を軽々持ちあげるとそのまま再び椅子に腰を下ろし、自身の太ももの上に彼女を座らせた。

「どっちも」


evoL liveD



***
2014/09/28
DROOM:出典

キャラ指定:ダンテ

※ピザ屋さんの名前は捏造です。ケイラもオリキャラです。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -