小説 | ナノ


  10:結成、第一班


「うちは○○。アカデミー卒業試験を受けないか?」

 アカデミーの担任のコゴロウ先生からそう言われたのは十二月のこと。
 第三次忍界大戦と呼ばれるようになったこの前の戦争と、十月の九尾の妖狐の襲来により人材確保が早急に求められた。里が人手不足なのは行き交う忍たちの顔色を見れば一目瞭然だった。皆、疲弊していていつか倒れてしまうのではないかと思えたほどだ。
 それほどまでにこの里は追い詰められていた。

『……どういうことですか? 卒業って大体は十二歳にならないと……』
「いや、アカデミーの卒業は年齢ではなく実力だ。お前はもう十分下忍としてやっていける力があると思っている。忍術の成績も知識も素晴らしい上に……その……戦時中の功績もある。オレとしては寂しいが、特例として卒業試験受験者に推薦しようと思ってな」

 私はまだ七歳。あまりにも早い卒業に私自身にそれほどまでの力があるのだろうかという不安が過った。

「まあ、なにより試験を突破しないと卒業はできないんだがな。……でも、お前が自分の力を謙遜して受験するのを躊躇っているなら、その必要はないと言っておくぞ」

 返事は今じゃなくていい、と先生は言ったが医療忍術もアカデミーの授業で教わる範囲は終わってしまい、一緒に授業を受けていた友人もいないのでアカデミーを卒業すること自体に後ろめたさも名残惜しさも無い。
 早く下忍になりたいわけではないけれど、先生の言葉と私に対する評価を信じてみようと思った。
 だから、

『私、卒業試験受けたいです』

推薦を受けることにした。



 目の前にはアカデミーの教師が二人。
 窓から暖かな風と桜の花びらが入ってくる。

「アカデミー卒業試験は、分身の術だ」
『はい』

 私は頷いて、未・巳・寅と印を結ぶ。

(分身の術!)

 白い煙と共に現れた私の二体の分身が両脇にいる。
 どうですか、と問いかけるように先生方に目配せする。先生はバインダーに挟んだ書類に判を押す。それを見たもう一人の先生が立ち上がり、

「おめでとう」

と、新しい額当てを渡してくれた。

『ありがとうございます』
「卒業式については追って連絡する」

 私は試験教室を出た後、足早に家に帰った。新しい家はアカデミーからは少し遠い。
 ピカピカの額当てを首で結ぶ、頬を撫でるそよ風も宙を舞う桜も私を祝福しているように思えた。



 ――桜が満開で見頃を迎えた。
 卒業試験の翌日にアカデミーから届いた手紙を見て、私は卒業式に出席した。卒業生が座る席の最後尾に私の席はあった。大きな体の先輩たちに混ざっての卒業式は少し緊張した。周囲を見渡すと、私の隣には私と同じくらいの年齢と背丈の男の子が二人着席している。

(あの二人も特例卒業なのかな……)

 私の隣に座る男の子が開式する前に後ろを振り向き手を振っていたので、私もふと振り返ってみる。すぐ後ろは通路で、それに隔てられて在校生たちが座る席がある。つい数日前まで毎日見ていたクラスメイトたちの姿があった。
 もうあのクラスに私の居場所はない。応援される温かな視線でもなく、かと言って、恨めしさを含んだ冷ややかなものでもないが、どこか一線を引かれたような目が私を見ていた。今の気持ちを言い表すなら、疎外感。
 校長先生の話や火影様の言葉、先輩の卒業生の答辞を聞き、私たちは退場した。
 在校生たちが卒業式の会場の後片付けをしている間、卒業生は各々の担任の先生と最後の対談をするのが通例だというので、私も例に倣い、担任だったコゴロウ先生にお礼を言いに行くと、「お前のような天才を教え子として持てて、オレは誇らしいよ」と強く握手をされた。
 そして先生から下忍チームの割り振り表を貰う。

『……あった』

 自分の名前を見つけ、同じ班の二人の名を見る。担当上忍の名前は明記されていない。

「由利シュンセツと望月ササメもお前と同じ七歳での卒業だ。卒業式の時に隣にいただろ、あの二人だ。先生方を始め特例卒業の班だと注目されてるからな、頑張れよ」

 由利シュンセツ。
 望月ササメ。
 名前は聞いたことがある。アカデミー在校中によく聞いた名前だ。どちらも違うクラスだったので顔を見たのは卒業式が初めてだったけれど、特例で卒業するに相応しいほどよく話題に上がっていたのを覚えている。



 卒業式から三日後。私は指定された教室にいる。
 春休みに入ったので校内に生徒の姿は見えず、ちらほらと私と同じ卒業生たちが誇らしく新品の額当てをしながら各々の教室に向かっている姿を目にしただけだ。
 集合時間の五分前になって二人が教室に入ってきた。

「よぉーっス!」
「先生はまだ来てない?」
『おはよう。まだ来てないよ』

 私にとってはほぼ初対面の二人は私の座っている席の前の席に座ったので、少し早めの自己紹介をした。

『二人は前から仲良いの?』
「オレたち、幼馴染だからさ!」
「先祖が同じ主君に仕えてたらしくて、今でも交流があるんだ。縁を切れってのはちょっとアレだけど、五百年前の先祖を持ち上げてる子孫同士でね、知りもしない昔を懐かしんでるってわけ」

 シュンセツくんが呆れ顔で言った。少し大人びた考えをする子だなと思ったのが第一印象だ。

「つっても、オレたちもお前もまだ七歳なんだから大人になる頃にはお前とも〈幼馴染〉になるぜ、よろしくな!」

 ササメくんは教室に入ってきた時の挨拶といい、とても元気で明るい子のようだ。気さくで裏表が無いように見えて、私はこの二人と同じ班でよかったと安堵した。
 それに、ササメくんが言った〈幼馴染〉という言葉が嬉しくて新鮮で、自然と頬が上がった。今までずっと私は一族の歳の近い人たちとは親戚として接してきてはいたが、どこに行くにも弟のイタチと一緒だったので、血の繋がっていない〈幼馴染〉に該当する人がいなかった。
 きっとアカデミーの頃の親友が生きていてそのまま一緒に成長していれば幼馴染と呼べる間柄になったのだろうけれど、残念ながら彼女はもういない。

「どうした?」

 シュンセツくんが聞いてくる。

『……幼馴染っていたことないから、ちょっと嬉しくて』
「ほー。うちは○○ってすげー天才って聞いてたけど、ホントはすげー変わってんだな」
『別に変わってないよ、普通だよ!』
「親近感湧いてほっとしたって意味だよ。オレもササメも、もう一人のチームメイトはあの名高いうちは一族の天才児って聞いてたから、実はどんな真面目ちゃんが来るのかと身構えててさ」

 なにそれ、と私はケラケラ笑った。いつぞやの友達と談笑してる時と同じ感覚がして心地よかった。
 集合時間が来ても先生の姿は見えず、私たちは話に花を咲かせながら先生を待った。三十分が経過した頃、やっと教室の引き戸が音を立てて開き、誰かが入って来る。

「いやー、遅れてすまないね」

 私たち第一班の担当上忍と思しき先生は予想に反して驚くほど若く見えた。
 卒業式で見た先輩たちよりも背が高く、私たちが見上げるほど大きい。

「オレは、はたけカカシ。君たちの担当上忍になりました。……ま、こんなナリだし、先生って呼ばれるほど指導したことないから……先輩とでも呼んでくれればいいから」

 カカシ先生もといカカシ先輩は白銀の髪を立て、黒いマスクと額当てで顔の大半を覆っているため右目しか見えていない。唯一伺える右目は気怠そうで、優しそうなおっとりとした口調とは裏腹に接しづらそうな印象を受けた。


「それじゃあ、今度は君たちの自己紹介をして貰おうかな。……どうせなら志とか将来の夢とかも聞きたいね。じゃあ前の席の……左側の君から」

 カカシ先輩はそう言ってササメ(雑談している時に呼び捨てでいいと二人に言われた)を指さした。
 
「オレは望月ササメ。将来の夢とかは今は特に無い! 強くはなりたい」
「結構ざっくりだね。火影とか?」
「んー、火影くらい強くなりたい。……けど、火影はデスクワークが多そうだからいいや!」

 ササメはそう言うと照れ隠しのように頭を掻いた。
 次にカカシ先輩は視線を隣のシュンセツに移す。

「名前は由利シュンセツです。将来の夢というか……目標……は、先祖の名前に縋らずとも名を残せるような忍になることです」
「由利一族の……由利鎌之助か……物語の世界だと思っていたけど実際に存在して子孫もいたとはね、驚いたよ」
 
 はい次、と今度は視線が私の方へ向く。
 前の二人が発表している間に、何を言おうかと将来の夢とかを考えてはみたもののそれといったものが見つからないまま順番が回ってきてしまった。

『うちは○○です。将来の夢は……』

 将来の夢は無いけれど決意したことはあった。サスケが産まれたときに心に決めた意志だ。

『どんなものからも私の大切な人たちを守れる力を持つ忍になること、です』

 言葉にするのは初めてだった。照れくさくて目を泳がせる。
 するとマスク越しにカカシ先輩が言った。

「その〈大切な人たち〉にオレたちも入るのかな」
『……今日から』
「それは心強いね」

 先輩の唯一見える顔の部位、右目が細められる。
 笑っているのだと分かった。


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修正:2018/03/17
再執筆:2015/09/13

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