小説 | ナノ


  05


今夜、六年生を集めて会議をすることを決めた。
おそらく先生方も屋根裏で聞くつもりだろう、別に構わない。

「揃ったかな?」
「あぁ」

若干小平太は眠そうだがそこは叩き起こさせてもらおう。
ここにいる者たちは僕が呼んだ理由が分かっているのだろう。
流石にあの場に居合わせた連中だ。
言葉は悪いが“後始末”の責任があるのを感じているのだろう。

「僕がここに呼んだのは他でもない。みんな分かっているだろうけど○○のことだ」

口火を切る。
皆に僕の今のところの見解を述べた。
やはり仙蔵や文次郎は半信半疑の様子だった。
分からなくもない。

「僕は彼女の記憶を取り戻してあげたい」
「そう思うのは良いんだが、あまり学園内を出歩かさせるのも良くないんじゃないか?」
「あぁ、それも話し合っておきたいんだ」
「傷の具合はどうなんだ?」
「うん。僕たちが初日に見た切り傷と掠り傷は次の日にはもう治っていたよ、跡形もなく」
「跡形もなくだぁ?回復力高過ぎねぇか?」
「うん、僕も驚いてる。まぁ回復力の高さは別として、怪我や病気でも無いのにずっと医務室に閉じ込めておくのも可哀相だと思うんだ」

○○の記憶が戻らない限り、彼女が来た場所も帰る場所も分からない。
前日の記憶も忘れてしまうような状態で忍術学園を無慈悲にも追い出すことは出来ない。
だからと言って、もし彼女がどこかの国のくノ一で忍術学園の内部を探るために送られた間者だとしたらそれ相応の対応をしなければならない。
彼女の素性が分からない以上、学園内を自由に歩かせることは非常に危険であるとも言える。

「僕は彼女が間者だとは思わない」
「……」

皆は黙って何も言わない。
各々考えることがあるのだろう。
同意見が欲しいわけではない、これは会議だ。

「別に私は伊作の意見に反対したいわけじゃない。ただ、私たちは六年生だ。下級生を、学園を守る義務がある。不審極まりない輩を信用することなど簡単には出来ない」

仙蔵の言いたいことは分かる。
冷静だなんだ言われているが、彼も彼なりに最上級生として学園を守ろうとしているのだ。

「俺もまだ素性がわからん以上は信用できん」
「うーん…」
「もそもそ」

文次郎も小平太も長次もやはりまだ彼女を信用しきっていないようだ。
当たり前だ。
僕自身も彼女に不信感を少なからず抱いている。

「確かに、洞察力は僕より仙蔵や長次の方が長けているだろう。技能で言えば文次郎や留三郎、小平太に勝てるとは思わない。
でも、僕はこの中の誰よりも人を見抜く目を持っているつもりだ。病人と健常者の違い、負傷者とそうではない人の違い、伊達に六年間も保健委員をやっていないからね」
「確かにそうだが…」

演技か演技じゃないかを見抜く力はこの中でダントツだと自負しているよ。

「知ってるさ、でも、もしも彼女が間者ではなくただ本当に困っている子であれば、今のようにずっと監視され軟禁され続けるのはあまりにも可哀相だ」
「このお人好しが」
ため息混じりに文次郎が吐き捨てた。

「お前、そんなんだからくノたまたちに甘く見られるんだぞ!」
「忍には向いていないって自覚しているよ。でも、僕にはどうしても彼女が演技しているように見えないんだ」

僕は真剣だった。
再び皆が黙り込む。
静寂を切り裂いたのは仙蔵だった。

「……わかった、いいだろう」
「伊作がそういうなら私は信じよう」
「ちょっと待て。もしあの女がお前を騙せる程の演技力を持っているくノ一で、この学園に害を及ぼす存在だったとしたら、伊作、お前はどうするんだ?」

留三郎がこの会議で始めて口を開いた。
彼も慎重なのだろう、責任感が強い男だ。

「……その時は、僕が、僕の手で彼女を始末しよう」

そんなこと無いといいけど。

「お前、そういうところだけは一丁前に忍らしいな」

文次郎が苦笑した。
お前に言われたくない。

「あの場に居合わせたのは我々も同じだ。彼女の記憶を取り戻すのにも協力しよう」

異論は無いな?仙蔵のその言葉に皆が肯定の意を表する。
僕らの部屋の天井裏に控えていた先生方の気配も消えていた。


◇◇◇

翌朝、学園長が緊急朝会を開いた。
下級生たちは眠い目を擦りながら朝会に臨んでいる。

学園長は数日前に保護した○○のこと、彼女の記憶が毎日失われること、今彼女についてわかっていること全てを忍たま全員に話した。
彼女については今まで、その場に居合わせた六年生と医務室で委員会活動をする保健委員、そして学園長と先生方にしか知らされていなかったため、他の忍たまたちは信じられないというような顔持ちで学園長の話に耳を傾けている。


「伊作」
「なんだい?」
「よかったな、これでアイツは医務室軟禁生活からおさらばできるぞ」
「…あぁ、そうだね」

留三郎が耳打ちした。
○○を医務室から出してあげたいと言ったのは僕だが、どこか不安も残る。

「嬉しくないのか?昨晩あんなに力説していたのに」
「嬉しいよ、とても」

でも、僕は他の忍たまたちに悲しい思いをしてほしくないんだ。


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