2014/08/31 (Sun) |
テニス部の練習が休みなので久々にしばらく使っていなかったゴルフクラブを磨こうと、ゴルフバッグを開けるとウッドとアイアンが1本ずつ消えていた。 バッグの中身を全て出してもその2本は見つからなかった。 しかしクラブは見つからなかったが、小さく折りたたまれた紙は見つかった。 「これは一体……」 [今日から別々に寝ましょう] そう書かれたメモの字は紛れもなく姉のものだった。 ふと目についたパターを見ると、赤いペンで何かのマークが書かれた紙がセロテープで留められている。 ――嫌な予感がした。 「姉さん、いますか?」 隣の姉の部屋の扉をノックすると、部屋着に着替えた姉が出てきた。 『あれ、比呂士。今日は部活無いんだ』 「ええ、今日は休みです。……あの、ところでこれは何です?」 文字の書かれた紙きれを見せると、「ああ」と納得した顔をした。 そして、 『昼下がりのゴルフクラブたち〜不倫夫婦の受難〜』 と、言い放った。 紙きれがはらりと手から滑り落ちる。 「は?」 『だーかーらー、昼下がりの……』 「いやいや、そういうのを聞いているんじゃなくてこの紙の意味をですね……」 嫌な予感が的中してしまった。 どうやら姉のよくわからない“お遊び”が始まってしまったらしい。 姉は自身の部屋に戻ると数秒置かずにして、手にアイアンを持って私の前に現れた。 『このアイアンのアイ子が、夫であるウッドのウッディーの浮気を知っちゃって離婚の危機なの』 「変なマークがついたパターは?」 『ああ。あれはキスマーク。あれがウッディーの浮気相手のパタ子』 「……私のゴルフクラブで昼ドラしないでもらえませんか」 『えー、やだあー』 思わず溜め息が漏れた。 姉からアイアンを受け取り、もう一本の居場所も聞くと「彼は蒸発した」とあっけらかんと彼女は答えた。 私より身長の低い姉の頭を鷲掴みにして、グググと力を入れると姉は『痛たたたたた』と手足をばたばたさせる。 『おいこら似非紳士、離さんか。離したまえ!』 「私のゴルフクラブを出したまえ」 『ウッディーはパタ子とのランデヴーに……いてててて。まったく、比呂士はまだあの男のことを……? 碌でもない男よ? 新たに女作るなんて』 「私をその昼ドラに出演させるのはやめたまえ」 手の力を強めると余程痛かったのか若干涙目になりながら、「バルス、バルス」と唱えはじめたので手を離す。 「で、そのウッディーとやらはどこへやったんです?」 『パタ子に聞いてよ』 姉が時たまこういった行動に出るのは、彼女の幼稚な性格もあるのだが何か企んでいることが多い。 今回のゴルフクラブ昼ドラ劇場も、彼女がただ一人でおままごとしていたわけではないだろう。本当のところは私は知る由もないが。 「……何が望みです?」 腹をくくってそう問えば、姉はにんまりと口角を上げた後、子どものような笑顔になった。 妹の亜希奈にそっくりである。否、亜希奈が姉にそっくりなのか。そんなことはどうでもいい。 『オールナイト人生ゲームしよう』 「だめです、明日は学校があるでしょう」 『ちなみに明日はテストがあります』 「勉強しなさい」 『それが嫌だから昼ドラ劇場してたんじゃないかー、まったく』 何がまったくなのか理解できないが、このままだと埒があかないので反論を呑みこんだ。 「いいですか、1回やったらちゃんと勉強してくださいね」 『やったー! じゃあ比呂士の部屋行くから首洗って待っとけよー! 大富豪になるのは私じゃああ』 そう言って姉は自室に戻った。 どうして彼女が私の姉なのか毛頭理解できないが、まぎれもない事実であり真実である。 「姉さん、とりあえずウッディーを返してください」 [戻る] |