「ヒロって可愛いよねぇ」 「ふぁい?」 もそもそとシュークリームを咀嚼していたヒロがまるっこい目を見開いた。この幼稚園児のような瞳とぷにぷにの頬、子供っぽい趣味、私より若干低いくらいの身長。母性本能とか庇護欲とか、色々とくすぐられる。年はひとつしか変わらないけど、それでもやっぱりヒロは可愛い弟だ。しかし本人はやはり釈然としないのか微妙な表情で肩を竦め、またシュークリームに歯を立てると溢れたクリームを指で掬い舐める。何でもこの喫茶店で一番の人気商品らしいのだが、特に興味も無いから私はアイスココアだけにした。ヒロも甘党というわけでは無いのだが、やはり人気だと言われると弱いのだろう。その気持ちは分かる。 「…可愛いんですかねえ」 眉間にしわを寄せながら、ミックスフルーツジュースに突き刺さっているストローを摘んで四角い氷をつつくヒロ。腑に落ちないと言いたげなヒロの指先を見つめながら可愛いよと返すと、更にむすっとストローの先を潰す。 「電脳歌姫とボクだったらどっちが可愛いですか?」 「私的にはどっちも同じくらい可愛いかな」 即答。するとヒロは真正面のシュークリーム(中途半端に残さないでさっさと食べちゃえばいいのに)が乗っかったお皿と右側のグラスを避けるようにテーブルの左半分に腕を乗せ、その上にぼてんと突っ伏した。面倒臭そうなことする子だ。 「男に対してソレは褒め言葉じゃありませんよ…今ボクのなけなしのプライドが綺麗さっぱり溶けちゃいました…どうしてくれるんですかぁ」 「溶けるの?崩れるんじゃなくて?」 「崩れるほど高くはないので」 あ、そうですか。 「でもやっぱりヒロは可愛いよ」 「…そろそろ怒りますよ?怒りますからね?」 「どうぞどうぞ」 頭を上げたヒロのいまいち覇気の無い、それどころか怒り顔なのかどうかすら危ういというかただのだだっ子のような膨れっ面に微笑ましさを覚える。まさかこれで怒っているつもりなのだろうか。よし、何か言ってみなさい。 「えっ何かって、そんな、ええと…ぼ、ボクより可愛いくせに、よっ世迷い言を!」 ほう、そうきたか。世迷い言なんてよく知ってるなあ、偉い偉い。しかしな大空少年、それは怒るとは言わない。褒めると言うんだ。 「ヒロかわいー」 「可愛くありませんってば!ボク帰りますよ!」 「どうぞどうぞ」 また同じような反応をするとヒロは空いた椅子に乗せていたポスターやらカードやらフィギュアやらが詰まっているリュックを持ち上げたが、しばらく静止した後それを膝の上に下ろし、ぶすっと口を結ぶ。 「…もういいです」 拗ねるヒロも実に可愛い。 恋とは違う盲目的で美しい感情 |