本名微ネタバレ 「ボクの世界は完成していたはずだったんだ」 Nは微笑を崩さないまま、ミルクティーの入ったマグカップを持ち上げた。ボクの世界とは、恐らくこの部屋のことだろう。カラフルで愛らしく、それでいてどこか切ない空間。私とNは、床に座り込んで稚拙なお茶会の真っ最中だ。かたかたと電車のプラモデルが部屋中をのろのろ巡っている。 「ポケモン達は誰にも束縛されていなかった。食事にも不自由しなかったし、本も玩具も、求めたら求めただけ与えられた」 「そう」 「でもね、本当は違ったんだ。ボクの世界は、余計なものと足りないもので満ち溢れていた」 何か考えていそうな、何も考えてなさそうな、感情を読み取りにくい目を細めるN。絵になるなあ、と思いながらふうん、と相槌を打つと、聞き上手だね、と笑われた。どこがだ。 「言ってる意味を理解してくれなくてもいいんだよ。何も口出ししないで、返事だけしてくれれば。それで充分なんだ」 「へえ」 「とにかく一方的に喋りたいときとか、キミもあるでしょ?」 「そうだね」 おもちゃみたいな時計がちくたくちくたく鳴っている。眠たくなるなあ。ああ、もう話し始めて二時間だ。そろそろ腰が痛い。今日の夕飯は何にしようか。あたたかいものがいい。 「どうすればボクの世界は完成するんだろうね」 「さあ」 「とりあえずキミの存在は欠かせないと思うんだ」 「…は?」 「あれ、話、ちゃんと聞いてたんだ」 少しだけ驚いたような顔をして、くすくす笑うN。からかわれているようで何だか悔しい。いつもいつも彼の方が一枚上手だ。ちょっと仕返ししてやろう。 「私の世界にもナツが必要よ」 「わあ、あだ名だあ。恥ずかしいなあ」 「…棒読みじゃん。馬鹿にしてるでしょ」 「まさか」 一枚どころか三枚くらい上手だった。この調子じゃあ私、死ぬまで彼に勝てないんだろうなあ。 惑星がきえる瞬間も隣にいてあげようか |