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一人ぼっちで百貨店やデパートをだらだらうろうろするのは意外と楽しい。急かす者が居ない、というのが非常に大きいからだろうと私は思う。目に入った店にふらりと立ち寄り品定め、お気に入りを見つけたら財布と相談。そんなこんなで元旦から近所の大型ショッピングモールでお年玉の三割を使いきってしまった私は、ほどよい満足感と共にそろそろ帰宅するか、と祖父母への手土産にたこ焼きでも買おうかとフードコートへ向かっていた。たしか二階にあったはずだから、エスカレーターで下へ降りなければ。

「…あれ」
「あ」

狩屋だ。元旦早々友人と出くわした。ずらりと向かい合わせで数多く立ち並ぶ店と店の間にある通路に所々置かれたベンチのひとつを陣取りぼんやりと虚空を眺めていた目が、私の声に反応してこちらを向く。よくよく見ると、狩屋の足下には大量の紙袋が並んでいた。

「何してんの?」
「兄貴の荷物持ち」
「お兄ちゃん居たんだね」
「あー…まあ」

隣に座りながらこれといった意味もなく笑みを見せると、狩屋は何故か苦々しげな顔をして正面にある店を一瞥し、溜め息を吐く。更には疲労困憊と言わんばかりに大きく肩も竦めた。相当厄介なお兄さんらしい。

「みょうじは一人か?」
「うん。お爺ちゃんはマラソン?駅伝?…だっけ、それ見たいって言うし、お婆ちゃんは人込みダメだし、親は今海外だし」
「大変だな」
「いや、むしろ気楽に買い物できてラッキーだよ。親も明日には帰ってくるしね」
「そりゃよかった」

狩屋の態度になんとなく違和感を感じたが、あまり深く突っ込むべきではないだろう。干渉されるのを人一倍嫌がるタイプだし。

「なあみょうじ」
「なに?」
「福袋、一個やろうか」
「…何で?えっいや駄目でしょ」

狩屋はあまりばかばか買い物しないし、どう考えてもこれはほとんど狩屋のお兄さんが買ったものだ。それを狩屋から勝手に受け取るのはさすがに遠慮したい。もし狩屋が買ったものだとしても、まるまる一袋は気が引ける。

「別にいいっつーの。去年も大量に余らして、はる、…別の兄貴に飛び蹴り食らってたし」
「でも、」
「いいから。兄貴には後で言っとく」
「よくないって!」

案の定お兄さんの購入品だったらしい。ちょっと強めに断るとふて腐れたような目をした狩屋が緩く睨んできたが、日本人は謙虚に謙虚を重ねる生き物ということで華麗にスルー。

「…じゃあ、ちょっと待ってろ」
「は?」

ぶすっとした表情のまま福袋をひとつ開いた(テープが剥れていたから既に開封済みだったのだろう)狩屋は中身を漁り、手のひらサイズの何かをずいっと差し出してきた。ヘアピンだ。

「俺が買ったやつ。ブレスレット目当てだったから、こっちはいらねえ」
「…狩屋が買った福袋、の、中身?」
「ん」
「本当にいらないの?」
「こんな女々しいのつけられっかよバカ」

どうやら本当に狩屋が買ったものらしい。それなら貰ったってマイナスな感情は何も感じない。それどころか、すごく嬉しい。濃いオレンジ色の小花がついた、細いヘアピン。何かに似ていると思ったら、色が狩屋の目とそっくりだ。

「ありがと」
「失くしたりすんなよ」
「しないしない。せっかく狩屋から貰ったんだし」

ありがたく受け取ったヘアピン入りの小袋を眺め、つい頬がゆるむ。可愛い。シンプルだから何にでも合いそうだ。雷門中はヘアアクセサリーにも髪型にも規制は無いし、学校へもつけて行ける。

「じゃあ私、帰るね」
「…ああ」

正しくは「たこ焼きを買ってから帰る」なのだが、まあいい。去り際に見た狩屋の顔がどことなく赤かった気がするのだが、これってもしかして、期待してもいいのだろうか。


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