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じょきんと言うよりしょきんといった感じの至極軽い間抜けな音のあと、しまった、と思うより先に、んぎゃあ、と口にした。
私は気分転換に前髪を切ろうとして、見事に失敗したみたいだ。どうしよう、絶対晴矢とか晴矢とか晴矢とかに馬鹿にされる。

「何やってんの?」

うおおバレる馬鹿にされる、と思って身構えたら杏だった。びっくりさせないでください。

「蓮池さん、前髪のカットをミスってしまいました」
「あーあ、何やってんのよ。ちょっと見せて」

額に押さえ付けていた手を退かして見せる。杏は私より身長が高いから自然と見下ろされることになるけど、何故か苛立たないんだなあこれが。晴矢だったら腹部に膝蹴りするくらい(したくなるくらい、ではない)腹立つけど。

「あー、これ以上切ってなんとかするのは多分無理ね、悪化しそう。伸びるのを待つしかないわ」
「うそぉ…」

藁にもすがる思いで杏を見つめる。渾身のぶりぶりキラキラおめめで。キラキラ!

「や、やめてよ、その目…。分かった、分かったから!」
「さすがっす杏さま万歳!」

まったく、と呟きながら杏は腕を組んで眉間にしわを寄せ、ああでもないこうでもないとぶつぶつ呟く。あんたは風介か。あ、褒め言葉です。

「そうね、カチューシャつけてでこ出しなんてどう?」
「…うん?」
「たしか愛がいくつか持ってたから」
「うん?えっ?いや、いやいやいや恥ずかしくね?ソレ。でこ出しとか恥ずかしくね?」
「いいじゃない、別に。それともそのまんまでいるわけ?」
「喜んで装備させていただきます」
「よろしい」

なんか尻にしかれてる気がする。


 * * *


そんなこんなで、もうかなり涼しい時季だというのにでこ出しさわやかヘアーとなりました。違和感ばりばり。
とりあえず今日一日でも晴矢に会わないようにしたい。あ、いや、無理か。夕飯のときに会うじゃん。ピンチじゃん。ちくしょう、せめて夕飯までは会いたく、

「なまえー、俺のDS知らねー?」

…なかったのに。
知らねえよあんたのDSなんざ。どうせまた布団の中に埋まってるよ、よく探せこのキングオブアホ。どっか行ってください。

「おいこらなまえ、…ん?お前なに、なんででこ出してんの」
「何か文句あっか」

杏も愛も可愛いって言ってくれたけど、ぜんぜん可愛くないし。「あいつ卒倒するわね!」とか言ってたけど平然としてるし。もともと魅力のかけらもない女が(不本意でも)イメチェンなんかしたって変わらないんだよねえ、そういうもんよねえ、世の中。

「あー、なんかあれだな」

ほらほら来るぞ、絶対笑われるぞ。

「でこちゅーしやすそうになった」

すんません、卒倒するのは私のほうでした。
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