友達以上恋人未満、正にそんな関係。登校中出くわしたら喋りながら教室まで行くけれど、どちらかが迎えに行ったり待ち合わせをしたりはしない。意図的に係や委員を揃えることはないけれど、偶然同じになったら一緒に仕事をする。そんな風に曖昧で、あやふやで、いまいち距離を縮められない関係なのが今の俺達だ。俺はこれで満足しているわけではない、しかし安心はしてしまっている。前進はできないが後退もしない、心地良い関係。俺は自分の想いを伝えることによってこの関係を壊してしまうのが怖い、というありがちな悩みを抱えていた。


 * * *


「私、次サボっちゃおっかな」

つやつやと輝く髪を揺らしながら、みょうじはにへらっと笑った。どうしようもない関係を少しずつながら縮めていた間に、俺たちはあっという間に高校生だ。卒業式では最後だ何だと騒いでいたが、雷門中メンバーは結局八割が同じ高校に進学している。

「あと一時間で昼飯だろ。もうちょっとじゃないか」
「嫌嫌!私、一度決めたら曲げないタイプなんだから、サボるったらサボる!」
「はいはい分かった、いってらっしゃい」
「何言ってんの、風丸もサボろうよ」
「はあ?」

怪訝な顔でみょうじを軽く睨むも、彼女は怯まず更に言葉を並べ立てていく。マシンガントークってやつか。

「いつまでもいい子ちゃんしてたって楽しくないよ?青春は待ってくれないんだから」
「テスト前だぞ」
「そんなんノート借りてぱぱっと軽く見直せば済むことじゃん」

一応反撃してみたが、うまく言いくるめられてしまった。これ以上強く言えないのは、所謂惚れた弱みというやつだろう。「みょうじに言い負かされて授業ボイコットしたからノート貸してくれ」なんて言ったら鬼道に笑われそうだが、それでもいいかと思ってしまうのもきっと惚れた弱みだ。

「屋上でいいかな」
「別にどこでも。みょうじなら空き教室とか知ってそうだと思ってたんだが、」
「今日はやだ」
「…やっぱり、知ってはいるんだな」

苦笑いしながら、屋上へと続く階段を上っていく。踊り場でだけ手摺を掴むのは、昔と変わらないみょうじの癖だ。

「到着ーっと」

軽い言葉を飛ばしながら扉を開けるみょうじ。広い屋上には、弱い風がゆるゆると吹いていた。

「天気いいな」
「そうだね。どっかの誰かさん風に言うと、絶好のサッカー日和かな?」
「むしろその誰かさんにとっては、たとえ嵐でもサッカー日和なんじゃないかと思うんだが」
「言われてみれば、確かにそうだね」

そう言ったみょうじは軽く背伸びをして、フェンスと向かい合うように座り込む。フェンスに背を向けるのが普通だが、不思議ちゃんと言えなくもないみょうじのことだから、いちいちツッコんでいてもきりがない。ということで、何も言わずみょうじの隣に腰を下ろす。

「お、体育やってる」
「本当だ。豪炎寺が居るから、多分三組だな」
「うわーすっごい仏頂面。せっかくグラウンドに出たんだから、サッカーやりたいんだろうなあ」

そんなどうでもいい会話をしながら、晴れ渡った空の下で笑いあう。たかがそれだけのことなのにこんなに楽しいのは、きっと隣に居るのがみょうじだからだ。…なんて、きざなことを考えてみたり。

「あのさ、風丸」
「何だ?」
「…んー、やっぱいいや」
「いやいやいや、気になるだろ」
「呼んだだけだよ」
「やっぱいいやの後に言ったって説得力無いからな」
「本当に呼んだだけ」
「…我が儘娘」
「はいはいごめんね」

みょうじが両手を持ち上げ、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。その左手が下ろされた先には──俺の右手。

「っあ、」
「わ、ごめ、ん」

何てテンプレートな…とは思いつつも、この馬鹿みたいにうるさい心臓はどうしようもない。一瞬だけ触れた指は、少しだけ俺より温かかった。

「えー、と」

沈黙に耐えきれず口を開くも、次の言葉が見つからない。
こっそりとみょうじを盗み見る。…と、偶然目が合ってしまった。みょうじの目は透き通っていて、それこそ吸い込まれそうだ。他にも、赤くなった頬とか、なめらかに揺れる前髪とか、見え隠れする鎖骨とか、つやつやした唇、とか。

「みょうじ」

ついさっき離してしまった手をもう一度触れさせる。きらきらした目を縁取る長い睫毛の一本一本が数えられるくらいの距離。ばれないように唾を飲み込み、恐る恐る指を絡める。抵抗はされない。オレンジ味のキャンディを思わせる彼女の吐息が、淡く鼻孔をくすぐった。

「いっちばんのり、…あれ?」
「っわああああ!!?」

神速でみょうじとの距離を広げた。振り返ると、弁当箱片手に不思議そうな表情で突っ立っているマックスと半田の姿が。

「あーお前ら、何処に行ったのかと思えば、サボってたのかよ」
「…半田、半田」
「どうしたんだ二人とも、揃って顔赤くして」
「半端あああ!!」

マックスが凄い形相で半田の頭のてっぺんにある二房の髪を掴んだ。そして不自然な笑顔で引き帰していく。

「ごっめんねー、ごゆっくりぃ」

ムードを壊すだけ壊して去って行ってしまった。ああもう、ちくしょう!

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