皆さんこんにちは、音無春奈です。私は日々キャプテンと木野先輩の様子を窺い応援する日々なのですが、今日は二人のそれぞれの幼馴染み、風丸先輩とみょうじ先輩の恋路をレポートしたいと思います。
まず風丸先輩の態度には驚きましたね。穏やかで友達思いで爽やかイメージがあった、と言うより事実そんな感じな彼が、みょうじ先輩にだけはちょっと荒めに接するんです。わざと煽るような事を言ったり、女の子扱いしなかったり。まあ要するにあれですね、好きな女子にはつい意地悪してしまうという古いながらもよくあるパターンです。
みょうじ先輩もだいたいそんな感じですかね。いつもは明るくフレンドリーな人なのに、風丸先輩にだけは押しつけるようにタオルやドリンクを渡しますし(そして口喧嘩が始まる)、口調もがらりと変わります。しかしまあこれも照れ隠しでしょう。

「ねえ、その暑っ苦しい髪何とかなんないわけ?」

…おっと、今日も始まったみたいです。今回先に仕掛けたのはみょうじ先輩。

「ばっさり切れよ。見てるこっちが蒸れる」
「何でお前なんかに指図されなきゃいけないんだ?みょうじが切れって言うんなら俺は意地でも伸ばし続けるね」
「そんなんだから女に間違われるんだっつーの」
「そうだなあ。確かにどっかの誰かさんよりは、俺の方がずーっと女らしいかもなあ」

世に言うどや顔を浮かべながら、テンプレートなギャルのように人差し指で自分の髪をいじる風丸先輩。それに対しみょうじ先輩はぎりっと歯ぎしりをした。

「あーらららぁ、自分が女男だって認めるの?」
「いいや。ただお前みたいな乱雑で色気のないやつと比べたら俺の方がよっぽど女っぽいと思っただけだ」
「ならニューハーフにでもなっちゃえば?」
「お断りだな」

ばちばちと火花を散らす二人。風丸先輩に至っては、握り締めているボトルがぎりぎり鳴っている。

「この阿呆コンビはいつまで経っても進歩しないな」

背後でお兄ちゃんが呆れ声に溜め息を混ぜていた。



 * * *


「っあああ、もう!」

近所迷惑にならないよう、枕に顔を押しつけて思いっきり叫んだ。蒸れるって何だよ、蒸れるって。本当は私より綺麗な髪が羨ましいなって思っただけなのに。おかげで女として見られていないじゃないか。…それも当然か。自分でも思う。私、笑えないくらい可愛くない。しばらく頭を抱えて唸っていると、ノック音がした。

「どーぞー。あ、秋?」
「遅くにごめんね」
「ううん、別に構わないけど…どうしたのさ」
「それがね、冬花さんがみんなにお菓子を作ってあげたいって言うから、明日材料買って作ろうかってことになったの。だから、時間があったら手伝ってくれないかな」
「いいよいいよ、どうせ暇だしオールオッケー。美少女に囲まれて万々歳!」
「なまえったら、またそんなこと言って…。ふふ、明日、朝の八時に玄関集合ね」
「はーい」

秋の妙な笑い声が気になったが、可愛いから別にいい。ということで、扉を閉める秋を引き止めはしなかった。美少女、素晴らしい人種である。



 * * *


「お前料理できんのかよ」
「できますけど」
「へーえ。そりゃ驚きだ」

解せない。何故今ここに風丸一郎太が居るんだ。解せない。解せない解せない解せない!

「皆おはよう。遅くなっちゃってごめんね」
「いえ、まだ10分前ですよ。私達が早過ぎただけです」
「ごめんなさい、付き合わせちゃって」
「いいのいいの!さ、行きましょ!」

ふわりと笑った秋が、私の方を見てもう一度ニッコリ。超かわい…いやそれどころじゃない。駆け寄って耳打ちで問い詰める。いくら可愛くても、やっていいことと悪いことがある!

「何で風丸が居るの!」
「男手があった方がいいかなって思ったの」
「だからってわざわざ風丸じゃなくたって…もっとこう、力ある人居るじゃん!」
「んー、なまえちゃんが喜ぶかなって」
「そんなわけ、」

…まあ内心喜んでるんですけどね。私服姿、初めて見るなあ。最近はいつもユニフォームかジャージだから、少しだけ大人っぽく見える。こいつ本当に14歳か?

「みょうじ、じろじろ見んな。鳥肌が立つ」
「だっ、誰がいつ見たのよ馬鹿じゃないのバーカ!」
「数学27点の馬鹿が94点の俺を馬鹿呼ばわりするとはな」
「ななな何で知ってんの!」
「さーあな?」
「お二人さん、喧嘩してないで早く行きましょうよ。今日の練習一時からなんですから」

春奈ちゃんの呆れたような声に正気を取り戻した私は、また頭を抱えた。あああ、ちくしょう!



 * * *


楽しそうに商品を選んでいくマネージャー陣を眺めながら、思わず笑みが零れた。だだっ広いライオコット島のスーパーを歩き回りながら私服のスカートを揺らすみょうじがありえないくらい可愛い。しかし、それを褒めることができない自分に嫌気が差す。

「風丸せーんぱい」

やたらと楽しそうな笑顔の音無がチョコチップの袋を持って現れた。鬼道と似てるんだか似てないんだか。

「すみませんね、お邪魔虫が居ちゃって」
「どういう意味だ?」
「後でちゃーんとみょうじ先輩と二人っきりにしてあげますから」
「ふたっ…だ、誰がいつそんなことを!」
「私が昨日思い付きました」

楽しそうな笑みを更に深め、愉快愉快という空気を振り撒く音無。二人っきりなんて勘弁してくれ、幸せと緊張でどうなるか分かったもんじゃない。

「満更でもなさそうですねぇ」
「馬鹿なこと言わないでくれよ」
「とか言いつつみょうじ先輩のことが好きなんですよね?」
「っあ、な、そんな、そん、ん、んなわけ、何を根拠に、」
「見てたら分かりますよ」
「あああありえないありえない、へ、変なこと言うな」

全力で否定したが、音無はお見通しお見通しと書いてある顔でにやついたまま。どうしろってんだ。

「ちょっと荷物持ち、さっさと歩けよ!」
「指図すんな27点!」

叫び返すと、音無がまた意味ありげに笑う。帰りたいけど帰りたくない、けど帰りたい。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -