mix log | ナノ


静かに落ち着いた空気が流れる図書室というのは、外食帰りの車内並に眠気を誘われる場所だ。堅い椅子と尖った空調の風、そんなものがまるで気にならないくらいに心地良い。かつかつと遠くから聞こえる足音、小声でおしゃべりをする女子の声、ハードカバーを閉じる音。多少の音があった方が眠りやすいというものだ。

「なまえ、無理しなくてもいいんだぞ」
「んー…んや、あとちょっとだし…翔ちゃんだって、曲覚える時間長い方が…」
「30分前からあとちょっとあとちょっとって言ってるだろ。昨日遅かったしさ」
「そうだっけ…」

睡魔を背中に乗せたなまえは重そうに頭をかくかく揺らしている。時たま左右にも動くため、このままじゃあ椅子からずり落ちかねない。大切な相棒兼想い人に怪我をしてもらっては困る。風邪で一日休まれた時も気になって気になって落ち着かなかったのだ。今作っている曲は夏休みの課題、今日中に仕上げなければならないわけではない。

「今日はもう終わろうぜ、な?夏休みはまだまだ残ってるんだしさ、ゆっくり寝て、明日また続きやればいいじゃねえか」
「あとちょっと…だってば」
「駄ー目ーだ」

広げられた楽譜をまとめ、ペンケースと一緒になまえのバッグへ押し込む。ちなみにこいつは変なところで几帳面だから、楽譜はきちんとファイルに挟んでやった。自分のバッグも拾い上げて両方肩に掛けてから、なまえの手を引く。思ったよりも小さく触り心地がよかった事に対し心臓が跳ねたが、今はそれどころではない。

「ほら、頑張って歩け」
「んん」

柔い足取りで歩き出す。何とか寮まで辿り着けたらいいんだけどなと心配感を抱えていると、不意になまえが俺の手に指を絡めてきた。要するにあれだ、恋人同士でやる、あれ。

「っちょ、おいなまえ、退学、なるぞ」
「たいがく…」
「あー、ったく!」

心の奥底では残念に思いながらも無理やり手を離し、代わりに手首を握って早歩き。このままでは心臓が爆発しそうだし、最悪爆発する前に退学になる。あのオッサンをナメてはいけない、なんてことは重々承知している。

「しょーちゃん」
「何だよ」
「しょーちゃんの手、おっきいね。男の子の手」

立ち止まらずに振り返ると、甘く緩んだ顔で微笑まれた。どことなく頬も赤く、いやに官能的だ。やっぱり退学の前に心臓が爆発しそうな気がしてきた。顔を前に戻して溜め息を吐く。

「ね、しょーちゃん」
「…頼むから黙っててくれ」
「いや。わたしね、しょーちゃんのこと、ちゃんと男の子として見てるよ」
「は、」
「わたし、翔ちゃんが好き」

ああ、やばい。今振り返ってはいけない。何かしでかしてしまいそうだ。


すきとおる密室


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -