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「翼は甘えたさんだなあ」

時は涼やかな風が吹く初秋、昼休み。屋上庭園のベンチは私のお気に入りの場所だ。昨晩の内に作っておいたおかずが詰め込まれていた二つのお弁当箱は既にからっぽで、心地良い陽気に瞼が重くなる。食後に襲ってくる眠気というのは実に強力だ。

「ぬはは、なまえあったかいんだぞ」
「今日ちょっと肌寒いもんね。存分になまえちゃんの体温をご堪能ください」

そう言うと翼は嬉しそうに笑って、腕の力を強めた。翼との体格差がありすぎる私は、彼に抱き締められるとそれこそすっぽりと両腕に収まってしまう。いつも可愛くて癒し系な子だから、こういう時に男の子なんだなあというのを思い知るわけだ。簡単に言うと、すごく、きゅんとする。

「ぬ、なまえ、あまーい香りがする」
「そう?…あ、多分食堂までお茶買いに行った時、宮地君と会ったからかも。でっかいパフェ食べてたから」
「うぬぅ、あんまり俺以外の男と仲良くしてると嫌いになるぞ!」
「ごめんごめん」

不貞腐れた翼の背中を撫でると、首筋にぐりぐりと頭を擦り寄せられる。小動物みたいだ。でかいけど。

「翼、くすぐったい」
「おしおきなのだー」
「本当にごめんって、ね?私は翼だけが好きだから」
「俺もなまえだけが好き」
「ん」

ちょっと機嫌が直ってきたのか、肩に顎を乗せられた。私の耳元で鼻歌を歌っている。お馴染みの歌詞が「ぬ」だけの歌だ。

「なまえー」
「何?」
「ちゅーしたいんだぞ」
「はいはい、どうぞ」

いつも以上に甘えてくる翼。うん、可愛い。目を閉じて顔を上げると、腰の辺りにあった翼の手が私の両頬に添えられた。

「あーん」

まるで何かを食べる時のような言い草だ。今までにも何回かこう言われたことがある。そして、どういう時に「あーん」なのかも解析済みである。かぷりと唇を甘噛みされて、まず触れるだけのキスをされる。

「なまえ」

いつもの明るさを保ちながらも、確かに男の子らしさがある翼の声。少しだけ口を開けて、前回より肺が強くなっていることを願った。


あなたの二酸化炭素で生きる


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