mix log | ナノ


なまえは食べ物を美味しそうに食べる人だ。口に含んだ直後に幸せそうな笑みを浮かべる姿はどこまでも愛らしい。クッキー等を食べるときのさくさくという音も、こっちまで食べたくなってくるくらいだ。CMに使えば売り上げが伸びるのではないだろうか。そんな食事大好きお菓子大好きななまえだが、驚くほどに痩せている。驚くと言えども食事量と比べての話だから若干痩せてるかな低度なのだが、僕は彼女くらいが一番好みだ。腕の中にすっぽりと収まるのに、女性らしい柔らかさがある。そんな感じがたまらない。実際に抱き締めたことは片手で数える程度しかないのだが、日本では付き合ってもいないのにべたべたするのはあまりよろしくないという話を聞き、最近辛抱を覚えたばかりなのだから仕方ない。

「見て見て羊君、星月先生に飴ちゃんもらった」

最近保険医に餌づけされているなまえが嬉しそうに袋を見せてきた。既に口の中にひとつ入っているようだ。

「本当は月子とふたりで食べなさいって言われたんだけど、月子、ダイエット中だから甘いものいらないーって言うの。だけど一個だけ無理やり口に入れてきちゃった」
「相変わらずぶっ飛んでるね…」
「そしたらさ、なまえちゃん可愛いから許す!って、あともう一個貰ってくれた。おかしいよね、私より月子の方がずっと可愛いのに」

本気で不思議そうに首を傾げるなまえ。下の上といったところの身長の為か自然と見上げる形になっているのが、何というか、すごくいい。

「確かに月子もすごく可愛いけど、なまえだって可愛いよ」
「えー、嘘だあ」
「本当だよ」

容姿的意味でも、性格的意味でも可愛い。どちらが上かと聞かれれば迷うが、個人的な趣味で言うとなまえが勝つ。月子は優しく包容力があるが、逆になまえは幼さが抜けきれずマイペースだ。その父性本能をくすぐる内面からどうも目が離せない。

「本当かどうかはさておき、嬉しいこと言ってくれる羊君にも飴ちゃんをあげよう」
「ありがとう。何味があるの?」
「苺ミルクと抹茶ミルク」
「じゃあ苺で」

手の平を差し出すと、その上にピンクの小袋を乗せてくれた。軽く指先だけ触れたのが、少しくすぐったい。

「いただきます」
「どうぞー」

にへ、と笑ったなまえに内心ちょっと…いや、かなりときめきながら、それを表に出さないように気を張ってキャンディを頬張る。苺系はほんのりと酸味があるものも少なくないが、これはひたすらに甘い。

「私もね、苺ミルク舐めてたの」
「そう、なんだ」

じゃあ今僕らの舌の上には同じものが転がっているのか。そう思うと少し恥ずかしくなってきた。彼女が絡むとどうも調子が狂う。

「抹茶、抹茶」

苺ミルクを舐め終わったのか、淡い黄緑色の小袋を開け始めた。妙に悔しくなって、僕もまだ大きいキャンディを噛んで飲み込む。そんな僕を見てなまえは柔らかく笑った。

「羊君も抹茶いる?」
「苦くない?」
「ちょっとだけ。でも甘さが勝ってる」
「そっか」

貰おうかどうか悩んでいると、半歩離れた位置に居たなまえが僕との距離を詰める。何事かと視線を送ると、僕は目を見開いた。音も無く唇がくっついて、キャンディを押し込まれる。ちらりと触れた舌がひどく熱かった。

「食べれそうにないなら、返してもいいよ」

何食わぬ顔をしているが、その両頬は明らかに赤く染まっている。赤、紛れもなく僕の色。

「そうだね、ちょっと苦いかな」
「羊君顔真っ赤」
「そっちこそ」

両手で彼女の頬を軽く抓ると、同じことを片手でやり返された。キャンディの袋が無ければ、確実に両手でやられていただろう。しばらくふたりで笑い合って、少し深呼吸をしてから額を合わせた。

「順番が逆だと思うな。僕に何か言うことは無い?」
「あるけど、私が先に言っちゃっていいの?」
「…ごめん、僕から言いたい」
「うん、じゃあ、どうぞ」

至近距離で会話をすると、彼女の吐息まで感じる。長い睫毛が揺れる度に胸が心地良く痛んだ。


溢れんばかりのハートは赤


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -