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あ、きれいだな、って。純粋にそう思った。
見上げても見下げても青、蒼、碧。ゆらゆら揺れる船の上ともなれば、見えるものは空と海くらいになる。私の目玉は今に青く染めあがってしまうんじゃなかろうか。そんな中、彼の姿は青い背景によく映えた。あどけなさを残した翡翠の瞳、潮風に揺れる金髪とそれを結わえる赤いリボン。ぼんやりと遠くを見る彼の姿は、不本意ながらかなり絵になっていた。

「イドルフリート」
「イドと呼べと、何度言ったら分かる」
「いいえイドルフリート、私はあなたの指示に従う気は御座いません」
「…何だこのやりとりは」
「さあ?」

彼の横で空を見上げる。青い。青くて青くて飽き飽きする。ゆらゆら揺れる船は気持ちが悪くなると言う者も居るが、私は結構好きだ。しかしこうも景色が変わらないと、さすがに気が滅入る。

「イドルフリートは美人さんね」
「何が言いたい」
「綺麗な顔立ちだって褒めてんのよ」
「ならば悪い気はしないな。もっと褒め給え」
「変態気持ち悪い吐き気がする」
「…私を罵ってみてくれ」
「ああもうイドルフリート様お美しくて羨ましいわ」
「意地でも私の言葉に従わないつもりか」
「だってアンタのこと、気に食わないんだもの」

率直な感想を述べると、それはこっちのセリフだとでも言うかのように顔をしかめられる。こちらを睨みつけてくる瞳は、やっぱりきれいだ。

「なまえは美しさとは程遠いな」
「失礼ね」
「…褒めたのだが?」
「どこがよ」
「私は可愛らしさと美しさを真逆のものだと考えていてね」
「はあ?」
「貴様を可愛らしい奴だと言っているんだ。そんなのも分からないのか、この低能が」

ぎゅう、と足を踏まれた。痛い。こういう時容赦ないんだよねこの人。

「痕が残ったらどうしてくれんのよ」
「一種のキスマークみたいなものだとでも思えばいい」
「鳥肌立つわ気持ち悪い」
「なんなら胸元にでもつけ直してやろう」
「真っ昼間から何言ってるのよ、突き落とすぞ」
「本気なわけ無いだろうが。騒ぐな」
「…あー帰りたい」
「母なる海へならば今すぐにでも帰れるが」
「やだもう面倒臭いこの人」

柵を背にしゃがみ込むと、イドルフリートが私の目の前に移動してきた。なんか見下されてる。ちくしょう悔しい。でも、見れば見るほど空を背にしても絵になる人だ。もうちょっとマシな中身だったら、もっとよかったろうに。そんなことを思っていると、彼もしゃがんでしまった。ほんの少し残念。

「…何よ」
「何だろうな」

そんな整った顔でガン見されると落ち着かないんですけど。熱い。熱くて熱くて爆発しそうだ。

「さて、私の意思に背き続けるなまえにひとつお願いをしよう」
「いきなり何言い出すのかと思えば…」
「簡単な話だ。絶対私に口付けるな」

さあどうする、と笑っている腹立たしい彼の瞳さえ美しく思ってしまった。むかつく。


唇も瞼も隠してください


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