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 私は今まで、ありふれたごくごく普通の人生を送ってきた。楽しいことも嬉しいことも悲しいことも辛いこともあって、そんな日々を当たり前に過ごせているのって実はすごく幸せなことなんだろうな、なんて、たまに思ってみながら。友達も居る、趣味もある、将来就きたい職業も漠然とではあるがだいたい方向は決まってきた。これだけでもう高校生として充分な気がしている。恋愛は何だか面倒くさいから別にいい。
 と、そう思っていた私に対し爆弾発言をしたのは、数少ない男友達のうちのひとりである高尾和成だった。
「オレ、お前のことが好きだ」
 はい? とか、ええっ! とか、とにかく何かしらの反応はするべきなのだろうが、私はただアホみたく瞬きだけを繰り返す。
 部活がいつもより長引き、もう暗いから急いで帰らないと、と思いつつ校門を出たところで高尾が声を掛けてきたのは、今から十分ほど前のこと。バスケ部はいつもこのくらいの時間に終わるそうで、やっぱ強豪校らしいし練習厳しそうだね、とかみょうじも大会近いんしょ? とか、そんな話をしている中、ふと高尾が足を止めたのだ。私も立ち止まり振り返ると、突然上記の衝撃告白をされたという流れ。前触れもなにもあったもんじゃない。
「みょうじー?」
「え、ああ……えっ?」
「もー、オレの一世一代の告白聞いてましたぁ?」
「聞い……てたけど」
「そ」
 ならいーんだけど、と高尾はいつもより快活さの薄い柔らかな笑みを見せる。しおらしい高尾なんて珍しい。真面目な高尾はバスケの試合を観戦しに行けばいくらでも見られるが、こんなのはきっと滅多に拝めない。拝んでいる場合ではないけれども。
「えー、っと……マジ?」
「マジ」
「本気?」
「本気」
「……あ、罰ゲーム?」
「いやだからマジだって。お前に信じてもらえねーことの方がよっぽど罰ゲーム気分だわ」
 そんなちょっと機嫌悪そうに言われましても。やはり信じられない。今まで高尾はそんな素振りをこれっぽっちも見せなかったし、シチュエーション的にもムードに欠ける。こんな状況でいきなり好きだなんて言われても、実感なんて湧かない。
「いつから好きだったかとか、そのへん話した方がよろしい?」
「え、……じゃあ、お、おねがいします」
「おー。つっても、イマイチはっきりとは覚えてねーんだけどな。いつからだっけなー……中2か?」
「そ、そんな前から?」
「あーいや、中1の終わり頃かもしんねーわ。2〜3年前か」
 なんとアバウトな。あやふやというような可愛いレベルではない。でも、どちらにしてもけっこう前だ。
「何か……何だろうな、うーん」
「え?」
「いや、なんで好きになったんだったかなーって……」
「は」
「あ、どういう時にあー好きだなーって思うかは言えるかんな?」
「……何か違うの?ソレ」
「いや、たまに髪型違ったりスゲー笑い上戸だったり、お前のそういうとこ可愛いなって思うんだけどさ、そんなやついくらでも居るだろ?」
「う、あ、うん」
 なんでこう、こっぱずかしいことを真顔で言えちゃうんだろうなコイツは。私ばかり照れて緊張しているみたいで悔しい。
「でもオレはみょうじがいいわけよ。引かれるかもしんねーの承知で言うけど、キスもそれ以上も、多分お前以外は無理っぽいってーか、嫌ってーか、考えらんねえんだわ」
「……うん?」
「そもそも他の女子が髪いじってても笑い上戸でも別に何も思わねーのよ。可愛いなって思うのはお前だけなワケ」
「は、はぁ」
「お分かり?」
「うーん……?」
 こんがらがってきた。高尾の言っている意味がよく分からない、でもめちゃくちゃ恥ずかしいことを言われているのだけは分かる。その恥ずかしさが邪魔をしてますます思考が鈍り、もう何がなんだか。
「ま、いーか。この辺は分かんなくたって」
「んん……」
「とにかくオレはお前が好きなの。オッケー? 信じた?」
「う……ん」
「なら良し!」
 いつもの弾むような笑顔。あ、高尾だ、と思った自分に笑いそうになった。でも逆に言えば、今までこういった笑顔の高尾くらいしか知らなかったというわけで。
「返事は急かさないから、ゆっくり考えろよ。あっさり無理! なーんて言われちゃあ、さすがのオレでもヘコむんで」
「が、がんばります」
「頑張ってくださーい。ま、よく考えてもやっぱ嫌ってんなら仕方ねーけどさ」
「……いっこ聞いていい?」
「んー?」
「なんで、今、と、いうか、さっきだったの? その……こ、告白? が……」
「あー、……なんとなく、男の勘ってやつだな!」
 高尾らしいようなそうでもないような。


ロマンを紡ぐ余裕もないのです

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