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 ガリガリと小気味良いような鬱陶しいような個人的に微妙なラインであるそれの音源は今、俺の真横で週刊の漫画雑誌を見下ろしている。時折ページを捲る音はわりと好きだ。しかし先述した音はハッキリとそうは言えず、というか音そのものはともかく、コイツが飴を噛み砕いていること自体があまり気に食わない。
「それさあ、楽しいわけ?」
「……あ、私?」
「お前だよ。飴がりっがり噛むの」
 そう言うとなまえはわざとらしく首を傾げながら、ぶりっこ声でうーんと唸る。本気でやっているのではなくネタのつもりなのだろう。面白くも何ともないが。
「別に楽しいってわけじゃあないかな」
「そ。じゃあやめろ」
「なんでよ」
「腹立つから」
 俺の言葉に隣人は怪訝そうに眉根を寄せ、またがり、と飴をひと噛みすると、もういくつ目かも分からない飴を袋から漁り出した。小袋からも中身を取り出しつまみ上げ口内に押し込むと、彼女は難しい顔で虚空を見据える。
「……」
「……何してんだよ」
 すっと五本の指を真上に伸ばした手のひらをこちらに向け、待て、とジェスチャー。何だってんだ。今度は俺が眉間にしわを寄せていると、口を真一文字に結んでいたなまえはふいに奥歯を噛み締め(たように見えた)、また飴を砕く。
「んあっ、無理!」
「はぁ?」
「噛まないで食べるのが無理っ!」
 ああ、噛まないようにしてたのか。ふつうに口内で転がしていればいいものを、不器用というか、ガキというか。難しい顔でなおも飴を噛みながら、なまえは肩を竦める。
「悔しい気がする」
「そりゃよかった」
「よくない」
 彼女は不機嫌そうにまた袋を漁り、そしてさも当たり前のように手を差し出してくる。その人差し指と親指が摘んでいるのは、今まさになまえが口内で粉々にしているものと同じお菓子だ。何だ、へそを曲げているのかと思いきや、そうでもないのか。
「くれんの?」
「一個ね、一個」
 可愛げのないやつ。仕返しにありがとうは言わなかった。無言で小袋を開け、中身を舌の上に乗せる。
「サイダー?」
「サイダー」
 しゅわしゅわして美味い。この感覚が売りなのだろう。しかし噛んでしまうとそれはいまいち分からないような気がする。損なやつだ。
「美味しいでしょ」
 ……お前がそれでいいならいいけどさ。


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