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 今日も今日とて太陽は飽きもせずにギラつき、私たちから気力と体力を着々と奪っていく。そうやってパワーを吸収しているから日に日に暑さが増しているんじゃなかろうか、と、眉根を寄せたが、そんな私の表情なんて誰も見ちゃいない。納戸に引きこもる佳主馬に会いに来たはいいが、こいつの視線はずっとパソコンに張り付いたままだ。そのままかれこれ1時間以上は余裕で経っている。
 ぐるぐる回る画面内の世界。前々からずっと思っていたのだが、これ、酔わないのだろうか。私もOZは一応やっているし、それなりに楽しんでもいるけど、佳主馬みたくテッペンを取ってしまうほどのめり込んではいない。目が悪くなっても知らないからな。膝立てるなんて、お行儀悪い。
「佳主馬」
「ん」
「佳主馬、かずま」
「なに」
「忙しい?」
「今は、別に」
 じゃあいいか、と思い、体を起こして佳主馬の背に張り付いた。ほっそい腰だ。バトル中にちょっかいを出すとわりと本気でうざがられてこれが結構ショックだし、私のせいでキングが負けた、なんてことになってしまえば自己嫌悪に押し潰されそうだから、学習した私はまず声を掛けてもいいタイミングなのか否かを見極め、話を振った後も更に様子を見ながら会話を続けるか止めるかを決めるようになっていた。佳主馬も多分確認のために声を掛けられるということに気付いている。が、自分から今はべたついてきてもいいよ、なんてことは言わない。回りくどい言動で聞いてくる私に合わせ、態度で静かに答えてくれるのだ。佳主馬のそういうドライなところが実は嫌いじゃない。
「暑いね」
「夏だし」
「それもそっか」
 暑いね、に対し、うんとか別にとか、そういう肯定否定だけで済む生返事ではなく、夏だし、と、ある程度中身のある言葉が返ってきた。今の佳主馬の頭が忙しくない証拠である。多少は会話らしい会話ができるくらいなのだからもうちょっと構っても大丈夫そうだな、と私はまた思考を巡らせ、とは言ってもさて何をしようかとか、あくまでも今の佳主馬に余裕があるというのは憶測でしかないから邪魔だったらこれ以上は駄目だよなあとか、色々と逡巡。
「用は?」
「は?」
「ないわけ?」
 特に不機嫌そうなわけでもなく、純粋な疑問として聞かれている、と思う。けれどやはり少し後ろめたくなって、佳主馬の背から頬を離した。
「ちょっと、腕」
「うで?」
「緩めて」
 はあ、と我ながら間抜けな声とも言えない声を出しながら従うと、佳主馬は上半身を捻った。しかし彼の仏頂面が見えたのは一瞬で、視界には褐色の首筋──かと思ったら、ほんの二秒か三秒で、またいつもの生意気な目が見えるようになる。
「え」
「なに」
「え、いや……」
 気恥ずかしい思いで額を指先で撫でてみたが、先ほどの感触は消えそうにない。考えれば考えるほど羞恥心は増すばかり。これだから佳主馬は分からない。
「こういうことじゃないの?」
「な、なにが?」
「だから、構って欲しかったんでしょ」
 いやまあ、あながち間違ってはいないというか正直その通りなんだけど、別にこういう、キスとか何とか、そういう恥ずかしいことをねだっていたのではない。そりゃあ嬉しいけど、まだ昼にもなっていないのに、中学生同士でこんなこと気軽にやっちゃっていいのだろうか、みたいな。
「自分からは抱きついてくるくせに」
「それとこれとは別だよ」
「どう別なんだか」
 わけわからんと言いたげに眉根を寄せ、今度は佳主馬から抱きついてきた。私の肩に額を乗せ、そのまま溜め息を吐かれる。くすぐったくて、思わず身じろいでしまった。
「……あつ」
 佳主馬の短いせりふに対し、うん、も別に、も出てこない。それくらいこの近距離に動揺して頭がいっぱいになっているらしい。いや、私から背後にひっつく分には今更照れも何も無いから、距離の問題じゃあないか。きっと佳主馬からっていうのと、向かい合わせっていうのが恥ずかしいんだ、と、思う。そんな判断もつかない。石鹸と、汗と、佳主馬の香り。よく分からないけど、目眩までしてきた。


とびこめば宿酔

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