「どうしようどうしよう、私、タイムジャンプ初めてだよ」 なんて、彼女はいかにも不安そうに言っているけれど、顔を見れば声色とは真逆の思いでいるのは瞭然だ。終始上がりっ放しの口角、ほんのりと赤い頬、静かに輝く双眼。どこからどう見ても楽しそうである。けっこう大きなことをしに行くのだから緊張感が無いのは考え物だが、まあ、へたに怖がられるよりはずっといい。 「こんなドジっ子連れてって大丈夫かなあ」 「大丈夫! ……じゃ、なかったらごめん。何かしでかしたら相応の罰でも何でも背負いますんでね」 軽い口調と身振りだが、彼女はきっと本気だ。基本お間抜けさんだけど、タイムジャンプに関しては、そのへんの教授並みには知識を持っている。だからこそ僕のサポートを頼んだ。彼女は今までに起きたタイムジャンプに関する事件とその結果を一通り把握している。例えば、ある男が興味本意で過去の人間と関わり恋をしたせいでその過去の女性が本来する筈だった恋がなくなり、本来の二人の子孫達が消え、逆に存在しない筈の人間が生まれてしまった、という事件は記憶に新しい。 「過去ってデリケートだね。時空間転移システムはこんなに安全になったのに」 「安全になっちゃった、って感じだよ。言っちゃあなんだけど、過去にも未来にも、行けない方が良かったのかもしれない」 「うーん……そうかも。言われてみれば」 それが一番平和だねえ、と笑うなまえ。それでも瞳は輝いたままだ。何を言ってもやはり過去に行くのが楽しみらしい。浮かれ過ぎて本当に事件を起こさないか心配である。 「どのへんに飛ぶの?」 「うーん、それは向こうの動き次第かな。今のところは奴らが松風天馬からサッカーを消そうとしてくるのを彼と一緒に阻止する、っていうのがベスト」 「やっぱ過去って面倒だねえ」 「不思議って言いなよ」 だって面倒じゃん、と唇を尖らせる。僕にとっては過去も女の子も同じくらい不思議でデリケートなものなんだけどな。 「さて、と。ワンダバの所にでも行こうかな」 「ワンダバ? なんで?」 「ちょっと頼み事」 「そぉ」 「来る?」 「行く」 あれ面白いから、なんてさらっとあれ呼ばわり。まあ確かにあの人、とは言いにくいけれども。ぱっと見はただのでっかいぬいぐるみだし。 「あ、ねえ、フェイ」 「なに?」 「服おかしくないかな」 「服?」 彼女の右手を左手で握りながら、首もとから膝までを目で一往復。別におかしいところなんて何もない。普通におしゃれさんだ。 「でもさ、ほら、過去の人からすれば変な格好かもしれないじゃん」 「そういうものなの?」 「そーいうもんなの!」 おかしな所を心配する子だ。僕は服のことなんて考えもしなかった。でもきっと、こういう風に自分と着眼点が違う人が身近に居るって、すごく幸せなことなんだろうなあ。 あなたのいる世界で呼吸をしているということ |