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中学生ともなると、どいつもこいつもいきなり色気付いてくる。男子はあの先輩はおっちょこちょいで可愛いだの隣りのクラスは美少女揃いだのとくっちゃべり、女子はあっちで神童様かっこいい、こっちで霧野先輩素敵。馬鹿みたいだ。そりゃあ俺だって小さくて髪が綺麗で目がくりくりした女子から狩屋君のこと好きだよなんて言われたら普通にときめくが、……何かなあ。長続きするカップルなんざごくごく稀だし、異性交友なんて高校入ってからくらいが一番いい。
なんて思っていたら、まさかまさかの事態。あの、あの奥手草食純情箱入り息子の神童キャプテンに彼女ができた。どういう化学変化だ。キャプテンの彼女はぶっちゃけかなり可愛い。小さいし髪綺麗だし目くりくりしてるし、更に謙虚で優しくて料理上手ときた。理想の女子そのものじゃねえかよ。よし。よし、もういいや。正直に言おう。前半全部嘘。キャプテンがめちゃくちゃ羨ましい。恋愛万歳。誰か俺にいい出会いをくれ、頼む。
とは願ってみたものの。

「ま、人生そう上手くいかねーよなぁ」
「うわ独り言きもーい、そんなことより蜜柑とってこーい」
「せめてお前がもうちょっと可愛ければ…」
「しばくぞ」

こたつと複数のガキが揃うと必ず起こる戦いを一方的に繰り広げている(俺が本気出して蹴ったら可哀想だしな。俺マジ紳士)この血気盛んな女は、喧嘩友達というか、何というか。もしこいつと俺との身長差がたった2cmじゃなかったら、もしこいつに枝毛が無かったら、もしこいつがツリ目じゃなかったら、もっと穏やかで清楚で他人思いなやつだったら。そしたら恋愛対象にできたのに。ちくしょう。一番身近な女子が半分男友達みたいなもんだなんて。ジーザス。

「なまえちゃんははなっから超キュートじゃん」
「うーわ、自分で言ったよ。痛々しー」
「事実ですからぁ。で、なに?私がマサキの中での可愛いの条件を満たしてたら、どうなってたわけ?」
「多分好きになってたんじゃね」
「うわきもっ」

そこは顔を赤くするとこだろ、分かってねーなぁ。ここで「何言ってんの、ばかぁ…」とか何とか小声で言ってくれれば今のお前でもオチてやったのに。つくづく可愛くない。

「私はさー、そうだなぁ、マイブームは倉間先輩。ちっちゃいのに気が強くてさ」
「あっそ」
「輝も可愛いし、三国先輩も優しいし…」
「へー」

誰も聞いちゃいねーよ。お前の趣味なんて知ったことか。俺は今、何を塗った食パンを咥えているのが女子とぶつかった時一番好印象かってのを考えるのに忙しいんだよ。チョコはねーな。美味いし好きだけど色で却下。もっとこう、鮮やかさが欲しい。

「でもやっぱ赤マル本命は霧野先輩だよ、霧野先輩!なにあれ、どこに売ってる何を使えばあんな美人になれるんだろうね」
「趣味悪っ」
「あー…霧野せんぱぁい…」

わけわかんねぇ。ピンクだしツインテールだし女顔だし神童神童五月蠅いのに、何故女子ウケがいいのかさっぱり分からない。あの童顔が母性本能をくすぐるってのか。むしろ霧野先輩の方がバリバリ父性本能発揮しそうなんだが。正直中身の男らしさは車田先輩あたりとどっこいだ。へたすると上回る。…あ、これ?これか?これなのか?まさか女子はこれをギャップ萌えなんて思ってんのか?

「私だってさぁ…」

こたつに突っ伏したなまえのくぐもった声がうっすらと聞こえる。なんだ、言いたいことがあるならはっきり言え。

「私だってマサキがもうちょっと素直で優しければ好きになってあげてたかもしれないのにねー…。ていうか蜜柑取ってきてってば」
「…え、今なんつった」
「蜜柑」
「その前」
「いいからマサキ、蜜柑。マサキ蜜柑」

そんなまるでそういう名前の蜜柑みたいなイントネーションで言われても。俺は柑橘類じゃない。


魔女のゆびさきでロマンス

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