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友達という存在は実に不思議なもので、どれだけ親しい相手であろうと、その人と仲良くなったのはいつからだったかとか初対面のときどう接していたかとか、そういうのは大抵覚えちゃいないものだ。もし覚えている人が沢山居るとしても、少なくとも私は覚えていない。気がつけば親密になっていた的なアレだったのかなにかきっかけがあったのか、それすらも記憶にないくらいである。が、それは私としてはどうでもいい話なのだ。別にいつから雪村と仲が良いのかとか初めて雪村と会ったとき私どう挨拶したっけとか、そんなのは覚えていても覚えていなくても変わらない。友達というのはそういうものだと私は思っている。今一緒に居て楽しければそれでいい。しかし雪村の方はそうでもなかったらしく、いや馴れ初めを覚えてなくても云々ではなく、まず私を友達とは思っていなかったようで。

「好きだ」

と、言われましても。
私にとって雪村は友達だ。何をどうしても変わらない。たとえこの場でキスをされようと超甘い言葉を囁かれようと付き合う気にはなれないだろうし、逆にそう簡単に雪村との友人関係を切ったりもしない。友達として大切であり、友達として好きなのだ。

「なんだ、場所か?もっとそれっぽい所でそれっぽい雰囲気になった時に言い直せって、そう言いたいのか?」
「いや、そうじゃなくて」

昼休みの屋上で言われようと雪村の思うそれっぽい所とやらでそれっぽい雰囲気の時に言われようと、答えは変わらない。雪村は友達。それ以上でもそれ以下でもない。

「でも俺はお前のこと恋愛的意味で好きだ。手ぇ繋ぎたいし抱き締めたいしキスもしたい」
「えっ無理、ていうかいきなりなに?なんで今?」
「なんとなく今じゃなきゃ駄目な気がした」

何だよそれ。

「で?」
「…で?」
「みょうじは俺のことどう思ってるんだよ」
「だから友達」
「それはさっき聞いた。照れてんじゃねえよ、言えよ」
「照れてねえよ」

じゃあなんなんだよ、とキレ気味に頭を掻いて、目尻をきっと上げる雪村。そんなイライラされても困る。とりあえずその両思い前提で話進めるのをやめなさい。これが私の本心だ。友達としてならそれはもう彼がピンチに陥っていたら一緒に巻き決まれてもいいくらい(助けられる自信は無い)大好きだが、付き合うっていう、そういうのは考えられない。

「とにかく諦め、」
「はい却下」

後頭部を鷲掴みにされ、雪村の鎖骨あたりに額を強打した。地味に痛むが、そんなことよりまずこの体勢があまりよろしくない。さっきまで肩を並べて座っていたはずなのに、なんだこれは。

「うわ、ちっさ。綺麗に収まった」

綺麗に収まった、じゃねえよ。なんで抱き締めるんだよ。変わらないって言ったばかりなのに。放せ。

「やけにあったかいな。子供体温?」
「放せって」
「なんで」
「なんでじゃないでしょうが」

このわがまま野郎。そんなんだから一部から嫌われるんだよ。逆に他の一部からはめちゃくちゃ好かれてもいるけどね、主に女子。でもそれでプラマイゼロというわけにはいかないだろう。

「冗談でも一時的な気の迷いでもないからな」
「は?なにが?ていうか放して」
「話の流れからして分かるだろ。俺は本気でお前のこと好きだ」

いや、だからそう言われましても。いいから放せよ。もし誰か、特に雪村を好いている女子集団の誰かに見られて勘違いでもされたらどうするんだ。なるべく静かに穏便に生きたいのに、変に目立つのは御免被りたいのだが。

「お前の意見は聞いてない」

てめえ自家撞着じゃないのかそれは。


みっつだけ数えて待ってあげる

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