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「太陽はバカだ、バカでバカで大バカだ」

仰向けに寝そべっている僕に跨がったなまえが、悲しそうに視線を虚空へ泳がせた。奥歯を噛み締めるぎりぎりという音まで聞こえてくる。いつもにこにこしていて、明るくて、楽しそうで、それ以外の感情はほとんど見せなかったなまえ。そのなまえが、怒りとか、憤りとか、そういったものを全部表に出している。

「なんで死ぬ前にサッカーやりたいみたいな、そんな、そんな…太陽はバカだ、バカだ!違うでしょ!逆でしょ!生きてサッカーやるんだよ、バカ、ばかぁ…」

ぷつんと糸が切れたように腕を曲げたなまえが僕の肩口に額を寄せ、息苦しそうにしゃくり上げながらバカ、バカと連呼する。上下する背中に右腕を回しゆっくりとさすると、なまえはまた「ばか」と小さい声を零した。

「ごめん」

ゆるく抱き締めると、そんな言葉が聞きたいんじゃない、と訴えるかのように、強く胸を押される。起き上がったなまえの目にいつもの好戦的な輝きは無く、儚げな少女のそれだ。大きな瞳から流れ落ちた雫が僕の頬を濡らしていく。最低かもしれないが、今のなまえは、すごく綺麗だ。ビジュアル的な意味もあるが、それより、僕を思って、僕だけを真っ直ぐ想って、僕のために泣いてくれているというのが、嬉しくて、美しい。

「わたし、わたしは、太陽が、好き」
「うん」
「好きなの」
「うん。分かってた」

なまえが目を見開いた。今日のなまえはころころと表情が変わって面白い。

「だって僕も、なまえのこと好きだから。だから、なんとなく、分かった」

いつもとは違う意味で、心の読めない顔をするなまえ。でも、きっとすっごく驚いているんだろうな。それくらいは分かる。理由はさっき言ったこととまったく同じ。

「ね、キスしていい?」

ぎゅう、と口を真一文字に結んだなまえが、真っ赤な顔で不安そうに視線をあちこちにさ迷わせた。数回口を開けたり閉じたりして、やっとの思いで絞り出したかのような、かすれた声。

「じゃあ…約束。約束して。手術受けて、ちゃんと、治すって」
「んー…そうだね。うん」
「…」
「本当、本当だよ!」

だから、ね?と促すと、なまえは緊張を隠せていないのを自覚しているようで、恥ずかしそうに目を細める。一瞬だけ唇を舐めたのは、肯定の証として受け取っていいのだろうか。左手でするりと頬を撫でる。微かになまえの肩が強張った。少しだけ力を入れてこちらに寄せると、向こうからも距離を縮めてくる。どちらからともなく目を閉じ、いつ触れるのだろうか、とどぎまぎしていると、音も無く唇が何かに触れた。多分なまえの唇の、右に寄ったあたり。きれいに重なるように滑らせると、今度はちゅ、と恥ずかしい音。シーツを握り締め起き上がろうとしたなまえの頭を抑えて更に強く密着させると、んぅ、と色っぽい声が聞こえた。こんなに可愛いなまえを残して死んでしまうのは、確かに勿体無い。もうちょっと頑張って生きてみたいな、と思いながら力を緩めると、体を起こしたなまえがもう一度だけバカと言った。


ぼくのしあわせがわらった

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