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「沖縄ぁ?」
「おお」

風の噂ならぬ風介(と呼んだら怒られるけど)の告げ口で知った「よーしバーン様直々に円堂守に会いに行っちゃうぞー!」という嘘だか本当だか分からない話の真実を知ろうと探りを入れたら、あっさり肯定された。わざわざ行き先までお教え下さって。

「沖縄ってあの…アレじゃん、リゾート地じゃん」
「まあ、旅行の行き先としちゃあよくある場所だな。景色とか綺麗だしよ」
「えっ何、お前一人で遊びに行くわけ」
「お前じゃなくてバーン様だっつってんだろ。あんたさっきなんて言ったよ、円堂守に会いに行くのかって聞いたろ?」
「聞いた。で、観光行くの?」
「だぁから、円堂守を見に行くんだよ馬鹿」

晴矢が足やら膝やらの上でぽんぽん跳ねさせていたボールを蹴りつけてきた。咄嗟の事だったため蹴り返すので精一杯。くそ、力込める余裕無かった。あっさり受け止められちゃったし。

「何でも沖縄に居るっつー炎のストライカーってのを探してるんだと。豪炎寺修也を期待してるんだろうが、そいつだって確証は無いらしい」
「ああ、そこで炎のストライカーは俺だ!って言って乗り込む。そういうこと?」
「そーゆーこと。珍しく頭回るじゃねえか」

にい、と口角を上げて笑う晴矢は相変わらず俺様気質だ。それなりに優しい面も無くはないのだが、やっぱり腹立つ。どこで道を間違えたのか私はこいつの彼女をやっているのだが、ツンとデレの差が激しすぎてついて行けない。ちなみにどっちの時もサドだから面倒臭い。別に私はマゾなんかじゃないのに。

「連れてけ」
「ぁあ?」
「私も沖縄行きたい。プロミネンス代表で付き添いする。連れてけ」

びしりと人差し指を突き付けながら宣言すると、晴矢はぱちくりと瞬きを繰り返した後、迷惑そうに眉間にしわを寄せた。大袈裟でわざとらしい溜め息を吐かれ、少なからずむっとする。

「あんたはそれこそ観光だろ」
「ばっか、心配してあげてんの。上手くいけば雷門イレブンに入れるわけでしょ?」
「まあな」
「うっわあ危なっかしいなあ」
「なんだとドチビ」
「うるさい男子の平均ちょっと下回ってるくせに」
「そんな俺に身長負けちまって悔しいなぁ、ん?」
「うっざ。とにかく私も行くからね」
「強引な女は嫌われるぜ」
「別にお前に好かれなくたっていい」

踵を返して早速自室で荷造りをしようと足を踏み出したが、あの馬鹿に首根っこを掴まれてしまった。私は猫じゃないっての。

「残念、俺は強引な女、結構好きだ」
「隠れマゾ?」
「いーや。強引なのを無理やり押さえ付けんのがたまんねぇ」
「はあ?」
「そうだな、例えば」

ぐいっと振り向かされ、首根っこを掴んでいた手が後頭部に回った。晴矢の金色の目が恐ろしいくらいに輝いていて、私の本能と経験がエマージェンシーコールをぐわんぐわんと響かせている。

「ちょっと、近い、んだけど」
「あれ、お前暴れねぇの?なんか萎えた」

私の反応が予想と違ったのか、あっさり体を放された。油断も隙もありやしない。こいつと居ると寿命が縮まる。


 * * *


「おーっ、暑い!」
「そりゃ暑いだろうよ」

初めての遠出に正直テンション上がりっ放しの私は、日焼け対策のために羽織っていたジャケットを脱いで浜辺を猛ダッシュした。立ち止まって振り返ると、背後に足跡が残っていて何だか嬉しい。

「なあ」

軽く追いついてきた晴矢も少しだけ嬉しそうに笑っていたが、それを押し隠して口を開いた。意地っ張りなやつだ。

「今だけは本名で呼んでいいぜ。バレるだろ」
「ああ、うん。おっけ。了解」

むしろいつも晴矢と呼びそうになってしまっているくらいなのだから好都合だ。変な気を張らずに済む。試しに晴矢と口に出したら、同じようになまえと返してきた。ちょっと嬉しいかもしれない。

「おら行くぞ、雷門の奴等探そうぜ」
「主導権握んな」
「なまえはただの付き添いだろ?黙ってついて来い」

なまえ、ほんの少し前までは毎日のようにこう呼ばれていたのに。くすぐったい。居ても立ってもいられなくなり晴矢の背中を叩くと、三倍返しされた。

「いったぁ……。あ、ちょっと、アレ。アレ見て」
「あ?」
「あれ、雷門のジャージじゃない?マフラーのちっこい奴が要注意って聞いてたけど、それっぽいのも居る」
「お、マジだ。吹雪士郎と土門飛鳥か」
「はー、詳しいねぇ」
「マスターランクのキャプテンなめんな」

にいっと笑った晴矢は、行くぞなまえ、とだけ言って私の手首を捕まえた。痛ぇよバカこのやろう。


地平線にウインクひとつ

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