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豹牙はちょっと…いや、かなりひねくれている。そのせいもあってか先月までは色々とこじれていて、吹雪さんと何やかんやあった。今は和解して落ち着いているが、いやはや、あの時の豹牙は実にやっかいだった。
まあそんな終わったことはともかく、定期テストも体育会も終わったし、文化祭はまだまだ先だし、現在はかなり平和だ。そんなのんべんだらりとした空気に完全に呑まれている私をよそに、豹牙は今日も今日とて寒空の下でサッカーに勤しんでいる。ホーリーロード敗退直後なのにと言うべきか、だからこそと言うべきか、結構気合いが入っている様子。熱心で非常によろしい。…よろしいのだが、辺りはもう真っ暗だ。携帯電話を開くと、すみっこに表示されているのは「18:47」。もうこんな時間か。

「ねえちょっと、豹牙」
「ん?」
「そろそろ帰ろう」

読んでいた本を閉じ、スクールバッグの中に突っ込む。冷気に晒されていた手はかなり冷えてしまっている。けれど手袋はもはもはして、本のページも捲りにくいし、あまり好きではない。

「今何時だ?」
「七時前くらい」

我ながらアバウト。豹牙もこういう時だけは大して気にしないタチだから別にいいだろう。彼が時間を気にするのは待ち合わせの時のみだ。二分遅れただけで心配させんなバカと頭をはたかれる。

「毎回待たなくてもいいのに。寒いだろ」
「別にいいって。どうせ暇なんだから」

家に帰ったって特別やることなんてない。だらだらとTVのチャンネルをいじくり回すより、豹牙がボールを蹴る音をBGMに本を読んでいた方が断然有意義だ。何よりエンカウント率の低い帰路を一人でぽてぽて歩むのはなかなかに虚しい。

「なあなまえ、手」
「手?」
「出せよ」

はぁ、と微妙な声を出しながら両手を出すと、両サイドから挟み込まれた。深爪気味の豹牙の手はあったかい。運動していたからだろうか。

「つめた」
「そうでもないんじゃないの?」
「そうでもある」

むすっとジト目で見下ろされる。相変わらず可愛い目。豹牙の好きなところと言えば、私は必ず目を思い出す。もちろん性格とか行動とかそのへんも好きだけど、ぱっと思い付くのはこれだな、やっぱ。

「なまえ」
「はいはい」
「キスしたい」
「うん?」
「気分」

いや、気分と言われましても。いつもはさっさと帰るのに、珍しい。よう分からんやつだ。いいの?だめなの?ではなく、いつならいい?と問い掛けてくる視線に知らず知らず今すぐどうぞと頷きそうになったが、慌てて急ブレーキをかけた。流されてはいかん。

「ここ学校ですけど」
「誰も居ないしいいだろ」
「いや豹牙あのね、」

問答無用、強引な唯我独尊雪村豹牙様のお出ましである。貴様の言い分なぞ聞いておらぬわといった具合に引き寄せられた。何とも言えない感触。舐めるなバカ。

「冷た過ぎてちょっと引いた」
「えっなによそれ、腹立つ」

お前からやったんだろ腹に膝蹴りするぞこの野郎、と思ったがまた出鼻をくじかれた。今日の豹牙は妙に積極的だ。引いたくせになんでまたやってんのコイツ、チャレンジャー?

「つっめた」

笑うな。


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