最悪だ。また物を落とした。きずぐすり程度ならまだいいが、今回はそうもいかない。あのアホ女から押し付けられた高そうなのか安っぽいのかいまいち分からない指輪。まあ、普通のデザイン。身につけるのは癪に障るから、と鞄に押し込んでいたのだが、見当たらない。めんどくせえ。 で、こういうときに限って、噂をすれば。 「よっ、シルバー」 緩みきったにやけ顔。いついかなる状況でも、微笑以下の表情は表に出さないやつだ。 「なあにしてんの?」 「関係ないだろ」 「王道の切り返しねえ」 耳に残る甘ったるい声。耳どころか頭からも離れないから尚更むかつく。 「当ててあげよう」 偉そうにあまり膨らんでいない胸を反らし、こちらに向かって人差し指を立てる。ふふん、といかにもな笑い方。 「落し物、もしくはなくし物」 うわ、当てやがった。 「手のひらサイズのもの。いや、指サイズって感じ?」 「…何が言いたい」 「そう急かさないの。シルバー、さあ、私に謝りなさい。貰い物を紛失するなんていいことじゃないよ。ああ、謝るのが嫌ってんならでこちゅーで許してあげる」 にやつく口元を隠そうとしない手に見覚えのあるリング。くっそ、どこまでもむかつく。 |