一中の番長だ何だと言っておきながらほとんど登校して来ないあのアホ仙道(そのくせテストの点数は上の中あたりというのがむかつく)が珍しく教室に顔を出した。クラスメイト、ビビる。…当たり前か。私は幼馴染とまでは言えないが仙道とは短い付き合いではないため、今更いちいちどうこう思わない。たまに優しさのようなものが見え隠れすることを知っている、というのもあるけれど。 一時間目の授業中は妨害も集中もせず、ただコンパクトなペンケースから取り出したボールペンをくるくる回しているだけで、特に真新しくは見えない教科書は一応開かれてはいたが、ノートは用意していなかったみたいだ。そして二時間目が始まるころに姿を消し、帰ったのかと教室内が安堵の空気に包まれたのもつかの間、四時間目の授業終了のチャイムと共に戻ってきた。なにがしたいんだ、おまえは。 「おい」 中途半端に聞き慣れた微糖コーヒーのような声は多分私へ向けられたものだ。はいはい、来ると思ったよ。 「なに?」 「帰るぞ」 「…何言ってんの」 さすがにそれは先読みできなかった。午後の授業どうすんの。 「昼飯くらい奢ってやるよ」 「なに、何なわけ」 「気分だ、気分」 珍しい。随分とらしくない。そんな思いが滲み出て訝しげな表情でもしていたのか、私を見下ろして仙道は眉根を寄せた。 「さっさと行くよ」 「拒否権」 「無いね」 どこまでも自分本位なやつだ。まあいい、どうせ午後は苦手な数学だけなんだし、さぼってしまおう。 私の二歩先を振り返りもせず歩き続けた仙道は突然ぴたりと足を止めた。斜め後ろで私も立ち止まる。 「迷った?」 「やめた」 「…は?」 「パンの気分じゃなくなった」 「また気分って…」 「何か作れ」 特に表情を変えるでもなく、真顔のまま私をチラ見。 「…私に言ってる?」 「他に誰が居るっていうんだい」 「仙道ぼっちだもんね」 「うるさいのが纏わりつくなんてごめんだよ」 「はいはい」 面倒だからパスタでいいや。 「じゃあ私ん家ね。ああ、親はどっちも仕事だから」 「コンビニ寄るよ」 「コンビニ?」 「昼飯くらい奢るって言っただろ。代わりに何か買ってやる」 「本当アンタどうしちゃったの」 「気分」 気分気分って、そればっかりじゃんか。 |