あ、Vにいさま、おかえりなさい。きょう、外は何かありましたか? 「…ごめん。ごめんね」 にいさま?Vにいさま、どうしたのですか?疲れているのなら、ええと、ココアを飲んではいかがでしょうか。紅茶でもいいと思います。わたしが用意しますよ。 「ううん、いいよ。やけどでもしたら大変だ」 おかしい。Vにいさまのようすがおかしい。いつもなら外のはなしをしてくれるのに。大切なことが終わったら見せてあげるからね、つれて行ってあげるからね、と笑いながらはなしをしてくれるのに。 「ごめん。僕は、…守れなかった」 Vにいさま?にいさま、ねえ、どうしたのですか? 「…ちょっと、疲れちゃったみたいだ。また後で話そう。おやすみ」 にいさま?にいさま?Vにいさま?夕飯がまだですよ?…行ってしまった。わたしはいいと言われたとき以外この部屋から出られないから、追いかけることはできない。どうしたんだろう。ひとばんゆっくり休めば、もとに戻るかな。 Vにいさまはあれからずっとすがたを見せない。わたしはXにいさまに、家の中までならいつでも好きなように移動していいと言われた。まっさきにVにいさまを訪ねようとしたけれど、できなかった。わたしはVにいさまの部屋がどこか、知らない。 「ただいま」 あ、Xにいさま、おかえりなさい。あの、Vにいさまのお部屋はどこでしょうか。 「…」 Xにいさま?Xにいさま? 「…すまない。少し、疲れてしまった」 にいさま、Xにいさま。Vにいさまもそう言っていました。Xにいさまも、Vにいさまのところへ行かれるのですか? 「おやすみ。後で、ゆっくり話をしよう」 にいさま、待って、Xにいさま。にいさまが閉じたとびらを、またひらいた。左右を見渡すが、Xにいさまのすがたは無い。どうしてだろう。Xにいさまは消えてしまったの?じゃあ、Vにいさまも?もしかしたら、Wにいさまも?トロンも?わたし、いやだよ。ひとりはもう飽きたよ。外なんて出れなくたっていいから、だれかずっとそばに居てください、ねえ。 食欲も眠気もない。なんとなくベッドにねころがって、読みもしない本をめくる。むかし、いつもXにいさまがわたしとVにいさまに読み聞かせてくれた絵本だ。Wにいさまはもうそんな子供じゃないと言い張っていたけれど、いつもそばにすわって聞き耳をたてていたっけ。だれかがプレゼントしてくれたものだったような気がする。だれだったかな。 あ、あしおとがする。 「ただいま」 Wにいさまはいつもとちがう笑い方をしていた。今にもなみだがこぼれ落ちそうで、わたしは、こんなWにいさまは見たことがなかった。 「おかえりなさいWにいさま、あの、VにいさまとXにいさまは?」 「…さあ、な。」 うそだ。うそをついている。根拠はないけれど、分かる。 「にいさま、つかれているのですか?眠気はありますか?」 「どうした、いきなり」 「だって、VにいさまもXにいさまも、疲れたって、眠いって。そう言ってどこかに行ってしまったんです」 にいさまの服をにぎると、にいさまはその手をなでた。やっぱり。やっぱり、Wにいさまも。 「いいか、一回しか言わない」 「…にいさま?」 「飯はちゃんと食って、寝ろ。少しでもいい。一口でも、一時間でもいい」 「は、…い。食べます。睡眠もとります」 にいさまの目を見上げると、やっぱり少しうるんでいた。 「あとで、また」 「ゆっくり話そうって言うんですか?」 「…ああ」 Wにいさまも行ってしまった。トロンはここしばらくずっとここに来てくれていない。いま、どこにいるのかも分からない。これじゃあもうひとりぼっちだ。誰もそばに居てくれないのなら、外に、家の外に出るしかない。外には色んな人がいる、と、Vにいさまが教えてくれたことがある。たくさんいるのなら、だれか、だれかひとりくらい、きっと、ずっとわたしのそばに居てくれるんじゃないだろうか。 |