あああ、情けない、情けない。私の両手は小刻みに震えていて、腰だって今にも抜けてしまいそうだ。何度やめておこうかと思ったことやら。でもせっかくここまで来たんだ、もう、どうにでもなれ精神で行くしかない。ゴーフォアブレイク、私。 と、何をこんなにわたわたしているのかというと、実はまあ、その、誕生日なわけでして。私ではなく。祝ってもらえるかなあソワソワ、というわけではなく。一年ほど前から気になっていた先導君の、だ。それでプレゼントを渡そうと思い、今、下駄箱で待機中なのである。最近放課後はさっさと帰ってしまうから、あまり長く待ちぼうけをくらうことはないだろう。ちなみに彼の誕生日は、教室後方に貼ってある全員書かされた小さいプロフィール用紙を見て知った。決して探ったわけではないから勘違いはしないで欲しい。 私と先導君の出会いは実に単純かつありきたりな話で、二年生のときの梅雨時、私が落とした家の鍵を先導君が拾ってくれたのがきっかけ。男といえば阿呆でガキ臭い、そんなイメージ全てを冥王星にまですっ飛ばすようなあの控えめで少女のように愛らしい微笑に一発でやられてしまった。そりゃまあレタスの中に苺が紛れていたら誰でも食いついてしまうというもの(レタスも好きだけど)。仕方ない、仕方ない。それ以来交流はまったく無かったが、なんと三年生になり、同じクラスになってしまったようで。もう毎日緊張で授業にいまいち集中できない。え、同じクラスなら教室で渡せって?2〜3人ならともかく、大勢のクラスメイトに見られるのはちょっと…アレだから、帰りのホームルーム後ダッシュでここに来たのです。 …あ、先導君、だ。 「あ、あのっ、す、先導く、っ!」 見事に裏返ってしまった。だいたい予想はしてた。 「えっ、あ…え、僕?」 驚いたように目を見開いて(そりゃそうだ)両手をあわあわと虚空に迷わせる先導君。かわい…じゃなくて!そうじゃなくて! 「これ、あのっ、どうぞ!じゃあね!」 「え?あ…まっ、ちょっと、えっ」 逃亡。………ああああしまった、大切なことを言い忘れてるじゃないか! 「先導君!」 「ふぇ、は、はいっ!」 「誕生日、お、おめでとう!」 私が渡した小さな紙袋を抱きしめ、先導君は数回瞬き。よし、満足!逃げる! |