「別に僕はキミのこと好きってわけじゃないんだけどね」 真顔の薫というのは個人的に中々恐ろしいものだ。周りにはいつもにこにこしていて私に対しては幼い頃から常に敵意むき出しだったから、そのどちらでも無い顔を向けられるとちょっと戸惑うというか、普通に怖い。 「不本意だけど僕と付き合って」 「…薫」 「なに」 「どっか痛いの?大丈夫?こけた?打った?」 「怒るよ」 もう既に怒っているような声色。いやだってホラ、いつも「翔ちゃんはあげないからね」とか「キミが居ると翔ちゃん頑張り過ぎちゃうから翔ちゃんに近付かないで」とか散々言われてきたのに、いきなり付き合ってくれ?はい?ていうか不本意って何だ。色々おかしいぞ。 「だって翔ちゃん、こうでもしないと諦めてくれないもん」 「何を」 「何でもいいでしょ。とにかく付き合って。本当の本当に不本意だけど」 いやマジ薫さん、あんた何言ってるんですか。 「んわ」 がし、と後頭部を鷲掴みにされた。髪痛いです。 「ちょっと、薫」 何がしたいの、というのは薫に飲み込まれた。キスと言うにはあまりにも痛過ぎる。むしろただ噛まれているだけじゃないのかコレ。 「言わせてもらうけど、僕はキミのこと大っ嫌いだからね」 |