16
生徒会室で見たものは、何とも信じ難い光景だった。
普段アルフォードが座っている椅子に本人は座っていたが、前にあるデスクには百合香が乗り上げ、アルフォードの首に手をかけている。
俺達がその光景を見たすぐ後に氷帝メンバーが2人を引き離す。
俺達はそれをただ見ていることしか出来なかった。
なんなんだ、これは。
きっと全員が思っただろう。
あの百合香が何故、と。
俺達が戸惑っている間にも氷帝メンバーは事を進めていた。
「宍戸、誰でもいい。教師連れて来い」
「おう」
「俺も行くぜ」
跡部の指示に素直に返事をした宍戸は走ってドアから出ていき、その後を向日が追った。
入口付近に居た俺達は出てくる2人を避けるように端へ寄るしかない。
百合香は樺地に抑えられ身動きが取れない状態だ。
「…あかんな、そこそこ深いでこれ」
忍足は椅子に座っていたアルフォードをソファーに移動させ傷を見ている。
先程までギリギリあった意識も今は途切れたみたいだが、どうやら息はしているようだ。
「クロエさん…」
「クロエちゃん大丈夫…?」
鳳も日吉も芥川も心配そうに横たわるアルフォードを見ている。
「ミカエルか。出資先に飯田ってのが居ただろう。連絡いれて至急立海に来るよう言ってくれ」
てめーの娘が殺人未遂起こしたってな。
殺人未遂。
執事だろう人に連絡する跡部の言葉を聞いて余計訳が分からなくなる。
誰が、殺人未遂を。
「おい、お前」
必死に現状を飲み込もうとしている俺達を他所に電話を終えた跡部は百合香を見下ろした。
「自分が何したか分かってんのか」
「…」
「チッ…忍足」
「一応応急処置はしたで、けど早よ病院連れてったらな」
「跡部、これは、」
呆然としていた精市が躊躇いながら室内に入っていく。
「あ?てめーん所のマネージャーだろうが。何故分からなかった」
それは何故飯田百合香がミーハーだと分からなかった、ということなのだろう。
…何故だろうな。
良く考えれば分かった事なのに。
「今までも興味ない振りしたミーハーなんて見てきただろうが。何故見破れなかった」
分からないが、何故跡部はこんなにも怒りを露にしているんだろうか。
普段の跡部なら女1人いじめられようが見向きもしなかった筈だ。
…今回はいじめの度をはるかに超えているが。
「ん、」
「クロエ!?」
未だソファーで意識を失っていたアルフォードが目を覚ましたのか忍足の声に跡部も俺達から視線を外し、アルフォードの元へ向かった。
「クロエ。俺が分かるか?」
寝転ぶアルフォードの顔を覗くように上から問いかける跡部と手を握る忍足。
「け、ご…?」
「良かった、大丈夫ですね」
鳳の心底安心したという言葉と共に教師を連れた宍戸と向日が入ってきた。
室内を見た教師は目を見開いて驚いている。
何があったんだと聞いている内に今度はきっと百合香の親だろう男女が入ってきた。
そしてこちらも後ろ手に捉えられる百合香と起き上がりソファーに座る顔色の悪いアルフォードを見て一気に青ざめた。