15
生徒会室でクロエ・アルフォードと話してから数日後。
今日は氷帝と合同練習の日だった。
去年の全国大会では準優勝に輝いた強豪校。
レギュラーは中学の頃と同じメンバーだったが全員が全員目に見えて成長していて要注意校だった。
高等部に上がった氷帝メンバーからは我々立海の常勝という掟のような優勝に対する執念が物凄く感じられるのだ。
だから今回の練習試合は大変嬉しいものであった。
「よぉ、幸村。久しぶりだな」
「あぁ、今日はよろしく頼むよ」
テニスコートに来た跡部率いる氷帝レギュラー陣。
跡部は相変わらずカリスマオーラを纏わせていた。
「あの、久しぶり、跡部くん」
精市と挨拶を交わしていた跡部に百合香が話しかける。
「あーん?…あぁ、飯田社長の」
会話を遮られてか少し険しい顔をして百合香の顔をじっと見てから思い出したように言った。
「覚えててくれたのねっ。あれ以来会ってなかったからてっきり忘れられたかと思ったのよ」
親しそうに話す百合香と対照的な跡部。
「なんだよ百合香、跡部と知り合いかよぃ?」
「あ、うんそうな「ただ取引先の社長の娘ってだけだ」ぇ、」
丸井の問いかけに嬉しそうに少し誇らしそうに答えようとした百合香の言葉を遮って答えたのは跡部だ。
精市と跡部が挨拶し終えたらさっそくアップをして試合を開始させた。
「ええんかいな?あのお嬢さん」
ダブルスの試合を見ていたら聞こえてきた忍足の声。
視線を向ければそこには忍足と跡部の姿。
「あーん?なにがだよ」
「いや、あれ絶対跡部のこと好きやん」
どうやら内容は百合香のことのようだな。
忍足の問いかけに跡部は鼻で笑い答える。
「知るかよ。そもそもあいつの家は跡部が出資してやってるただの成金だ。そのくせ自分は恰も跡部と同等の立場に居ると勘違いしてやがる。頭の中身も品もねぇ、ただの雌猫と同じなんだよ」
「はー、えらい辛辣やなぁ。まぁでもあれはプライドばっか高い典型的な高飛車タイプやな」
「気の強い女は嫌いじゃねーが身の程知らずな高飛車は嫌いだ。そんなことよりお前、雌猫のこと考えてる場合じゃねぇだろ」
「せやったせやった。俺には可愛いお姫さんがおるもんな」
「…お前、それあいつの前で言ってみろよ。殴られるぜ」
「もう殴られた」
「……なんか、すまねーな」
「いーやそんなとこも可愛ええからええねん」
2人の会話を聞いていたらダブルスの試合が終わっていた。
どうやら百合香は俺達が思っているような性格ではないのかもしれない。
それにしてもあの忍足があれほどまでに言う『お姫さん』とやらはどんな子なのだろうか。
試合も中盤に迫ったころ、百合香が教室に忘れ物をしたと校舎の中に入っていった。
それが20分ほど前のことだ。
「百合香先輩遅くないッスか?」
赤也のその言葉にそういえばと。
「なんかあったんじゃねーの」
丸井の言葉に見に行ってみるかと話していた時。
なにやら叫ぶような声が聞こえ辺りを見回す。
ふと上を見た時、窓から百合香が見えた。
あそこは確か生徒会室だ。
なぜあんなところに。
「おい、なんの声だ」
跡部にも聞こえたのかこちらに来ながら声を上げる。
「百合香が、生徒会室に居るようなんだが」
「生徒会室?」
ジャッカルの言葉と同時に跡部が勢いよく俺の指さす方へ顔を上げた。
「生徒会室、だと…?」
窓から見える百合香はよく見えないが何か争っているようにも見えた。
それを見た瞬間跡部と後ろにいた忍足が走り出した。
「ちょ、跡部!?」
精市の声も気にせず校舎にダッシュで入る2人を追うように、はっとした顔をした氷帝メンバーが走り出した。
訳が分からず、それでも争っているようにも見える百合香の姿もあったことからただ事ではないんだろうと俺達も生徒会室に急いだ。
生徒会室のある3階の階段を登りきったところで「クロエ!」という2人分、跡部と忍足の声を聞いた。
その後からすぐ「てめぇなにしてやがんだ!」と宍戸達の声も聞こえる。
そのただならぬ雰囲気の声に俺達も足を早くした。