13

驚いた。
俺のデータとは違ったのだ。


生徒会長のクロエ・アルフォードは1年の頃から会長をしている。
絹のようなブロンドの髪をツインテールにし、短いスカート。
その容姿からは到底想像出来ないが入試は首位だった。
それからも定期テストは必ず首位をキープしているし、運動神経も良い。
そして人望もある。
だがやはりというか、ミーハーだった。
周りの人間も派手な奴らばかりで、とてもじゃないが生徒会長には見えない。
だが役員選挙では生徒の支持を得て会長の座についているよく分からない奴。
それが俺のクロエ・アルフォードに対する評価だった。

2年の5月あたりでテニス部にマネージャーが出来た。
名前は飯田百合香。
2年になって転校してきたらしく、立海では珍しくミーハーではなかった。
自慢じゃないが俺の所属しているテニス部は容姿のいいものが多く、女子からの人気が高い。
応援してくれるのは嬉しいのだがフェンスの周りで大きな黄色い声をあげられるのは正直集中力が切れて迷惑なんだ。
だからか俺達レギュラーは女子が苦手だった。
中学の頃からだったから余計だ。
だからマネージャーもずっと居なかった。
最初丸井が連れてきた百合香にも疑っていたんだ。
だが百合香はそんな感じも一切見せず、俺達をサポートしてくれた。
百合香はクールな性格なのか大きな声で騒ぐわけでもなく、とても助かった。
真っ黒髪はボブカットにされメイクはしているがギャルみたいに睫毛をバサバサさせているわけでもない。
スカートも膝丈でその姿は好感が持てた。
そういえばあいつもメイクはリップグロスくらいだったな、と思ったがその考えは精市に呼ばれすぐに消えた。

「百合香がいじめ?」

レギュラー全員部室に集められなにが始まるのかと思えば百合香がいじめられているとのことだった。
精市からそれを聞いた瞬間丸井が心配そうに百合香を見る。
その日は注意して見てあげていてねと精市に言われ解散になったのだが俺は呼び止められていた。
他のメンバーは百合香を囲んで帰っていった。

「どうした精市」

「うん、ねえ蓮二。クロエ・アルフォードってどんな子?」

なにを言うのかと思えば。

「どんな奴か、俺にもよく分からない」

そう答えれば精市は驚いたように目を見開いた。

「そっか。蓮二に分からないなら誰も分からないね」

「あいつがどうかしたのか」

「それがね、百合香をいじめてる主犯がアルフォードさんなんだって」

その言葉に少なからず驚いていた。

「どうやらアルフォードさん百合香の親友らしいんだけど、ミーハーなんでしょ?百合香はアルフォードさんを信じてるって言ってたけど、」

ミーハーなら、有り得るなって。

精市はそう言って俺を見た。
それはつまり、忠告してこいということだ。
同じ生徒会の俺に。
精市の中での1番の可能性なのだろう。
だから俺は翌日の放課後生徒会室に向かった。


室内にはやはり会長であるアルフォードしかいなかった。
ゆったりとしたクラッシクが流れる中資料を片付けていたアルフォードに生徒総会の資料だと言ってデスクに束を置きじっとアルフォードを見てみた。
だがアルフォードは他のミーハーと同じように頬を赤らめるでもなく寧ろ少し怪訝そうに俺を 見ていた。
口調は間延びした媚を売ってくる女子のそれと同じなのに。
しかしその違和感はすぐに消えたのだが。
とにかく忠告をして早く部活に行こうと思った。

「では失礼する」

もう関わるなよと言葉にはしないが冷めた視線で見ながら背を向け歩き出した時、言われた。

「柳蓮二は違うと思ってたけどね」

その言葉に思わず振り返ったら、デスクに肘を付き組んだ両手に顎を乗せた体制のクロエ・アルフォードが冷たく笑っていた。
声が、口調が、瞳が、雰囲気が、全てが俺が見てきたクロエ・アルフォードという人物とは違っていた。
開こうとした口は一体何を聞こうとしていたのか。
分からないままだったがクロエ・アルフォードがもこれ以上は聞かないし話さないと言わんばかりにそのアイスブルーの瞳を資料に向けたから、俺は踵を返して生徒会室を出た。


あれは一体なんだったんだ。
確かに笑っていた。小さな口だって綺麗に弧を描いていた。
しかしあのアイスブルーは氷のように冷たかった。
声だって普段聞く高めのトーンじゃなく低く落ち着いた声色だ。
それに伴い間延びした喋り方もなくなりただただストレートに発せられた言葉。
俺は不覚にも先程のクロエ・アルフォードに恐怖を抱いた。
知らないはずなんだ。
知らないはずなのに、あの雰囲気。
逆らわせず、どこか高貴さを纏ったあの雰囲気と冷たい眼差し。
あれを俺は知っている。
あんなクロエ・アルフォードは知らないはずなのにあの雰囲気は知っているのだ。
いつか、どこかで感じたことのある雰囲気だった。

その正体を知るのはもうすぐ行われる合同練習でのことだった。

mae ato
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