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侑士との幸せな時間も終わり、また大変な日々が戻ってきた。
この時期は大会の近い部活も多いから立海の管理している合宿施設の使用申請をしないといけない。
マンモス校なだけあって施設は9つあるんだけど、高校だけじゃなくて中学・大学も使うからちゃんと申請しないと使えないのよ。
中学の頃なら氷帝が管理する施設が使えなくてもうちの別荘を使ったりでどうにでもなったんだけど、ここでは跡部ってことを隠してるからそんなことできない。
まぁ立海を強くする必要もないから跡部だと名乗っていたとしてもやらないけどね。

それだけならいいけど他にも生徒総会の準備とか色々あって本当に忙しいのよ。
なのに、もう、やめてほしいわね。


飯田の手下達による嫌がらせは水をかけられた時から酷くなっていた。
階段から落とされそうになった時は流石に驚いたわ。
そもそもなんにもしてない、寧ろクラスで孤立してた飯田と唯一話していた私がこんなことされないといけないのか。
それは多分『なんでこの私が無視されてあんたがあんなに構われてるのよ!?』ってことだと思う。
あの手の子は何でも自分が1番で注目されてなきゃ気が済まないタイプだもの。
しかもナルシストだから自分が嫌われるなんてありえないとも思ってる。
中小企業の一人娘で溺愛されてきたのか何なのか知らないけど変にお金があるってのも原因のひとつね。
終わってるわ。
あんなのが次期トップになるだなんて会社潰れるわね。

それでなくても氷帝メンツに会えなくて忙しくてストレスが溜まってるってのに。
そうイライラしながら今日も私は生徒会室で資料とにらめっこ。
私以外誰もいないからギャルでミーハーなクロエを演じなくていいのは助かる。
仕事はしてほしいけど。

持ち込んだコンポからは落ち着いたクラシックが流れている。
実はこのCD、鳳がくれたの。
侑士が泊まりにきた時に渡してくれた。
なかなか会えないのと、私が忙しいっていうのを景吾か侑士に聞いたんだと思う。
中学の頃から鳳はよく音楽室でピアノを弾いていてその優しい音色が好きだと言ったのを覚えてくれていたのか私の好きなクラシックを演奏してCDにしてくれた。
中には侑士のバイオリン曲も入ってて最近はこのCDばかり聴いてるのよ。
いい後輩を持ったものだわ。
メッセージカードも入っててそこにはレギュラーメンバーからのメッセージが書いてあって、もうそれだけで頑張れる。
つくづく私は氷帝が好きだと再認識した。

鳳のクラシックを聞きながら先ほど淹れたアールグレイを一口飲んでまたペンを握った。
ところで生徒会室のドアがノックされた。

「どうぞー」

部活も始まってる時間だし先生かと思ったけど入ってきたのは書記の柳蓮二だった。

「どうしたのー?」

普段の私からギャルの私へチェンジして話しかける。

「あぁ、生徒総会の資料をな」

「そっかぁ、ありがとー」

私が使う会長用のデスクに束ねられた資料を置いた柳はそのまますぐに出ていくのかと思ったけど正面に立ったまま。
細められた目で私をまっすぐに見ている。

「…部活はいいの?」

「委員会で遅れると言ってある」

「そう、」

なんなのよ。
早く行きなさいよね。

「綺麗な音色だな」

「え?あ、そうなのー。知り合いが弾いてるんだよー」

視線が私から近くのコンポに移ったような気がすればクラシックの話題。

「こういうのを聞くのか」

「んーそうだねぇ。落ち着くもん」

にっこり笑って言えばそうか、と呟かれる。
以外だって顔に書いてありますけど。

「ところで百合香がクラスで孤立していると泣いていたのだが」

あぁ、飯田関連のことですか。
それがいいたくて出ていかなかったのね。
柳のその一言のはお前がそうさせているんじゃないか、と含まれているようだった。
確かにクロエ・アルフォードはミーハーだからテニス部のマネージャーになった飯田の親友であった私なら嫉妬で手を回すと思われても可笑しくはないかもしれない。

「百合香を泣かすようなことしないでほしいのだがな」

それはもうあなたの中で犯人は私だと決めつけてるのね。

「では失礼する」

これは忠告だと言わんばかりの視線を残し柳は背を向けた。
だけどね、私。

「柳蓮二は違うと思ってたんだけどね」

組んだ両手に顎を乗せまたにっこり、けれどいつもとは違う笑顔でそう言えば柳は振り向き閉じていた目を見開いた。
何か言いた気だったけどこれ以上話す気も聞く気もないと私が視線を資料に戻すと柳も生徒会室から出ていった。

正直に言おう、やってしまったかもしれない。

mae ato
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