後輩を可愛がる少女

 そしてやってきた、柱合会議。
 やはりというか何というか、『鬼を黙認した』ということで柱の皆には軽蔑的な目で見られてしまった。そうは言ってももうやってしまった事だからなあ。……それに、御館様にはちゃんと報告しているし、黙認することを許されていたんだ、何も問題は無いだろう?


「鱗滝左近次、冨岡義勇、胡蝶カヲリが腹を切るお詫び致します」

 炭治郎が選別に受かった辺りで事前に鱗滝左近次さんとは話し合っており、私も彼らと共に腹を斬る覚悟はあると伝えていた。

 それだけの価値があるかどうかは、まあぶっちゃけると少し悩むと思った。
 けれど、二年ぶりに見た禰豆子を目に捉えた瞬間。自ずと覚悟は決まった。
 人を食べてない鬼は、あまりにも気配が独特だった。どす黒い匂いがしていないというか、鬼であるがどこか純粋な気配というか。“違う”ということが明確だった。
 禰豆子は、人を食べていない。にわかに信じがたい話だが、本当に事実なのだ。この出来事は、鬼舞辻無惨を倒すための何か大きな手掛かりになる。そう感じたのだ。

 そうして、結果として言うと炭治郎を庇えた訳だが。

「姉さん、私はそんな話聞いてないですよ!?」
「ごめんってば。でもだって言ったら止めただろう?」
「当たり前です!!」
「ごめんって」

 きゃん!と叫ぶように叱ってくるしのぶの声を右から左へと聞き流しつつ、蝶屋敷に向かっている。しのぶは怒ると長いからなあ。予想はしてたけど、かなり怒らせてしまった。

「もう!詳しく話して!」
「はいはい、屋敷についたら話すよ」
「全く、勝手なんだから…!!」

 ごめんて、ともう一度軽く謝って、屋敷を目指した。


 そうして。しのぶに二年前のことを話した。黙って聞いてはくれたけど、やはり嫌悪感は隠さないから。嫌われちゃったかなぁと思って寂しくなってしまう。
 私達はどう頑張っても“鬼”への嫌悪感は隠せないから。それを庇う私のことも、なんて。

「……分かった。鬼のことは嫌いだけど、確かに禰豆子さんは独特な気配をしていた。……二年、食べてないという話だったし。カヲリ姉さんが、禰豆子さんに何か“可能性”のようなものを感じたのも分かった。御館様もそれを黙認していた。だとしたら、私に言えることはもう無いじゃない」
「……うん。そうだね。だからさ、しのぶはしのぶとして禰豆子を見てあげて」
「……そうする」
「うん、良い子」

 ブスくれた顔をしたしのぶの頭を撫でる。いつまで経っても、優しくて可愛い妹だ。
 きっと私の言葉や御館様の言葉、禰豆子の存在。それら全てに腹を立てて、悩んでいる事だろう。けれど、その感情を吐き出さない。カナエの死から、それら全てを笑顔で飲み込む事を覚えてしまった。

「もう、私はそんな子供じゃないのよ」
「うん。でも、可愛いから撫でたくなるのは仕方ない!」
「なによそれっ」


 ◇ ◇ ◇


 久しぶりに会った炭治郎や禰豆子は、二年でそれなりに成長していて。あの時怯え震えていた少年が、こんなに大きくなったのかと少し感動した。
 選別までの修行を二年、それから受かってからの鬼殺隊としての日々。……心も体も、良く持っている方だろう。挫折する子も、死んでしまう子も多いのだ。この鬼殺隊という界隈は。

「よく頑張ってるな」
「ありがとうございます、でも。まだまだこれから頑張らないと」
「あはは、その気持ちがあるだけ上出来だよ。この鬼殺隊という世界は果てしないからね、“心”を強く持つんだよ。この世界にいるお姉さんからの助言だ」
「は、はいっ」

 炭治郎と禰豆子の頭をウリウリと撫でてやれば、ポアッと頬を赤らめる炭治郎と、私の手に頭を擦り付けてキャッキャと喜ぶ禰豆子。その表情は年相応で少し安心する。

「が、頑張ります!」
「むー!」
「ふふ、うん。頑張ろう」

 三人でじゃれあっていれば、じっとこっちを見ていた黄色い髪の特徴的な少年から声が掛かった。

「た、炭治郎。この人って?」
「ああ、善逸。この人は幻柱の胡蝶カヲリさん。禰豆子と俺のために命を賭けてくれた人なんだ」
「胡蝶、カヲリさん」
「うん。君とははじめましてだね。……ん?善逸って、桑島さんのとこの?」
「は、はひっ。じいちゃ、桑島さんは俺の師匠に、なります!」

 確かここ数年手紙に出てきていた弟弟子の名前がそんなだったね。なるほど、君が!

「じゃあ君が泣き虫で頑張り屋の我妻善逸くんか!」
「ちょっとまってこんな美人に泣き虫って覚えられてるの遺憾の意なんだけどなに??じいちゃん余計なことしないでくれる??」
「あはは、でも泣き虫でも頑張ってるんだもんね。カッコイイよ!うん、会えて嬉しいな。善逸くん!」
「俺も嬉しいです!!あっあっ手を握らないで嘘でしょ手、手がやわらかいっ!これはもう結婚かな!?そういうことかな!?」
「落ち着け善逸!」
「あははっ、面白いねぇ君たち」

 全く、騒がしくて可愛い子たちだ!
prev next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -