心臓から涙をこぼす少年

 カナエと共に立派な藤棚を抜ければ、最終選別の説明をされる。要約すれば『鬼の巣食うこの山で七日生き残れ』、とのこと。
 早くも帰りたそうな子たちが結構居たが、反対にやってやるぞと意気込んでる子たちもいる。
ぐるりと見渡して、全体的に年齢層が低い事に気づく。同じか、少し下か。

 私達みたいな子が、結構いるのか。

 その事実に騒然とした。
 鬼への嫌悪をさらに抱いていれば、山に案内されるので付いていくことにする。

 そうして始まった、死と隣合わせの七日間。
 カナエと連携を取りつつ、付いたり離れたりしつつ。ひたすら鬼を狩る。

 桑島さんの預けてくれた日輪刀、これがまあよく切れる。しかしいくら鍛えているといえど基本的に体の作りの違う鬼や男ほどの体力は無いので、陰で様子を見ては逃げたり、他の子が危ないところは救ってみたり、いけそうなら普通に仕留めてみたり。

 なんやかんやで七日目をこなし。ヘトヘトドロドロな状態だったけれど、私もカナエも無事に選別を超えた。

 これからこんな奴等と毎日戦うのかと、底知れぬ不安はあれど。決めたのは自分だし、何よりその為の力だから。私は、止まれない。止まらない!



「おかえり、よう帰ったの。カヲリ!」
「ただいま帰りましたぁ…」

 桑島さんによく帰ったと抱き締められ。頭を撫でられて、さて。そこから記憶が無いから多分緊張の糸が溶けて気絶した。


 ◇ ◇ ◇


 それから、隊服と刀、伝達用の喋るカラスを貰った。鎹鴉と呼ばれる彼女の名前は花浅葱(はなあさぎ)。しっかり者で気が聞いて、何よりよく喋る。……それにしても鴉が喋るなんて、不思議な生き物だわ。

 日々、鬼殺隊として任務をこなす。
 狩って狩って狩りまくる。

 私の手は小さいから、助けられない命もあった。どうして助けてくれなかったのと石を投げられた事もあった。落ち込んだり悩んだりもした。それでも私は大好きなお母さん達を連れてった『鬼を狩る』ための、憎悪のような感情をひたすら燃やし続けている。この火はきっと何かあっても絶える事はない。

 成長と共に怒涛の日々を過ごしていれば、月日は経つもので。

 柱の中でも人の序列が変わっていくし、隊服を着た新たな顔触れも見かける様になる。まあそれだけの人が被害にあってるってことなんだけど、単純に数が増えるのは有り難い。それだけ動ける人の手があるって事だから。

 そんなことをぼんやり考える私は今、蝶屋敷のベッドで横になっている。

「今回はまた派手にいったねぇ。ハイ、じゃあ安静にね」
「はぁい」

 鬼の拳をモロに受けてしまい、左足の脛を骨折したのだ。その為骨がくっつくまでは鎮痛薬を入れつつ絶対安静。骨がくっつくまでは機能回復訓練に入れないし、なにより絶対安静を言い渡されてしまい暇である。

 元々私たち姉妹は蝶屋敷の手伝いを良くしていた。悲鳴嶼さんが忙しい時に此処に預けられたりしてたから。
 薬のせいか午前中はひたすら寝てたんだけど、午後にもなると流石に寝れもしないし暇だしで腐りそうだった。なので。見舞いに来てくれたしのぶやカナエにお願いして伝言を頼み、蝶屋敷の洗濯物を畳むという仕事を貰うことにした。休めだてことなんだろうけど、何もすることが無いのは耐えられなかった。


「ぅ、うっ…っ」
「…?」

 洗濯物を運ぶのは屋敷の子に頼んで、極力足を動かさないように生活して。少しずつ治りつつある足を松葉杖で支えつつ厠に向かった際、奥の部屋から呻き声が聞こえた。まだ幼い男の子の声。

 襖の隙間から覗けば、うずくまるようにして唸っている。容態が悪いのだろうかと、その戸を開けた。

「君!大丈夫か?」
「っ!だれ?」
「あ、えっと。私はカヲリと言う。たまたま通りかかって……しんどそうだが、先生呼んで来ようか?」
「いい、いらない」
「でも」
「うるさいっっ!」

 振り払うように叫ばれて驚いた。でもすくにその目の血走り具合だとか、やつれた様な頬だとか。真っ赤な目元だとかを見つけて。
 嗚呼この子は今何か極限状態にいるのだと、理解した。

「俺は、俺はっ!こんな…!うっ、さびと、錆兎に会いたいだけなのに……!!」
「さびと?」
「俺なんかより、アイツが生きるべきだったのに…!!どうして、どうしてアイツが…!!」

 どうやら、『さびと』とやらはこの少年の大切な人で。きっともう今は居ない人なんだろう。……少し前に最終選別があった。タイミング的にはソレだろうか。ああそういえば、今年は死者が一人しか出なかったと言っていた。……その一人だろうか。

 胸元を抑えてうずくまり、涙をこぼす少年の背に手を添える。

「……寂しいな」
「ッ」
「苦しくて、立ち止まってしまうよな」
「何を分かったようなっ!」
「分からない。けど、それでいいのか?」

 少年から、息を呑む音がした。

「さびとって人は、君を追い詰めたくて守ったわけじゃないだろう?生きて欲しくて、戦ったんじゃないのか?」
「ッ!」

 瞳がくるりと光って、は、と吐息をこぼした少年。嗚呼、嗚呼と嗚咽が聞こえ始める。

「……世の中、寂しいし苦しいことばっかりだ。でも残された私達は、止まることだけはしてはいけない。何かを紡いでいかなければ、な」
「さびと、……錆兎……!!」


 カヲリの言葉が、少年の心に再び光を灯した。
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