劇的に愛してみせて!

「で?どういう関係で?」

あれから離れることの無い手に諦めて零達の元へ戻れば、お疲れなのか眠ってしまった潤を片腕で抱き上げながら秀一を睨みつける不機嫌な零がお出迎えしてくれた。

「え、と、元カレ?」
「…は?コイツが、お前の?」
「まあ、一応。…こちとらこっ酷くフラレてるから何で引き留められたのか不明なんだけどね」

ニッコリ笑ってやれば、零の顔は更に不機嫌になるし隣の秀一は肩を揺らして気まずそう。自業自得でしょ?何を今更。

「…それより、その子は」
「俺と珠璃の子だな。伊澄潤だ。…今は寝てるけどな」

何故か零がそんな事を言い出す。
秀一の、息を呑む音がなんでか響いて聞こえた。

一瞬零の奴何言ってんだ?とキョトンとしてしまうが、さっきの不機嫌さとは真反対にニコニコ笑う零が碌でもないこと考えてるのは確かで。別に秀一に息子のこと認知してほしい訳でもないし、とこれ幸いとその話に乗ってやる。

「そう。…秀一と別れて少し、地元に戻った時に幼馴染みの零と…ね。訳あって結婚はしてないんだけど」
「っ、そう、か」
「そうだ。…で?お前は何で珠璃を引き止めたんだ?」

秀一が何かを話そうとしたタイミングで、潤が起きた。

「…かあさん?」
「…おはよ、潤」

眠たげに開かれた瞳の色に息を呑んだのは、秀一だけ。

「っ珠璃、」

私と潤、零の顔を何度も見返して、どういうことだと困惑している。それに少し笑ってから、ネタばらしをする。

「…零のその話いつまで続く?」
「ふ、ネタバレが早いな。…コイツが例の男なんだろ?とても解せないが…」
「れーくん、…あのひと、おめめがぼくと、いっしょ!」

零の言葉を遮って、目をキラキラさせて言った息子の言葉が、答え。

でも。

「…そうだね、なんでだろうねぇ」

簡単に答えをくれてやるつもりはない。

「…珠璃、俺は少し潤とおもちゃ屋さんにでも行ってくるから。…ちゃんと話し合えよ。…赤井もな!」
「っああ、…ありがとう、降谷くん」

潤を抱っこしたまま去っていった零を見送って、逃すまいと繋がれた手をそのまま引っ張って人気の少ないベンチに座る。人に聞かせたい話でもないし。

「…で?」
「…まず、あの日の事から謝らせてほしい。徐々に連絡を減らして、挙げ句の果てには一方的に振って…本当にすまなかった。許されようとは思ってない。でもアレは、仕事で危険な場所に向かうために作った嘘で、本当はあの時からずっと珠璃の事を愛している。…見つけたら、形振り構わず追い掛けてしまうくらい」

は?と思った。

「で。貴方は今迄の気持ちを吐き出して満足だ、と?冗談じゃない。こちとら別れた後に身篭ったと分かって。…貴方の事が、元カレが忘れられなくて出産した馬鹿な女になったんだよ?あの子に父親を教えてあげられないことがどれだけ辛かったか、一人で親をすることがどれだけ辛かったか…貴方に捨てられたことがどれだけ、っ、どれだけ悲しかったか…っ、今更。ホントに、今更…!馬鹿じゃない…!」

ぽたり、感情が溢れだしたと同時、懐かしい香りに抱き締められた。
そうしたら、もう。だめで。

「好きだったのに、なんで、っ、て。ずっと、…っ今でも、許せないし、許したくもない。なんで、って、…なんで、アンタを好きになったんだろって、……っ、なんで、ずっと嫌いになれないんだって…!!」
「すまない、…っ、すまなかった」

彼の背に腕を回して、痛いくらい抱き締めあって、醜いくらいに感情を吐き出して、馬鹿みたいに涙を零して。

それから、言ってやった。

「っ、許さない。許さない、許さない…!私も、潤も、幸せにしてくれないと許せない…!!私の事がまだ好きなら、愛してるなら、っ、また、愛してよ…っ!」

それが、ずっと、貴方に言いたかったこと。
ずっと、ずっと、“貴方に”愛してほしかった。

「…っ、ああ。愛してる、愛してる。…だから、俺と、結婚してくれ。次こそ手放さない。必ず幸せにするから、だから、」

――――俺の帰る場所になってくれ。

「っ、うん。…っ、必ず、かえってきて、もう、手放さないで…っ」

二人して目尻を真っ赤に染め上げて、私達は触れるだけのキスをする。貴方とのキスは懐かしい煙草の味がして、また一つ、泣いてしまった。



そして、数ヶ月後。私は赤井珠璃に、潤は赤井潤になった。式は上げてないけど、入籍をしたのだ。
それから都内のマンションの一室…同じ家で住むようになった。“お父さん”の存在に戸惑う潤だったけど、これは少しずつ慣れていってくれればいいかなって見守ることにした。



「潤くんもうちょっとでお兄ちゃんになるんだって」
「お兄ちゃん!えっ、…お兄ちゃん!?」
「そーー!」
「珠璃、それは本当か!?」

ベランダで煙草を吸っていた秀一が慌てて火を消してこちらに来るのを笑いながら迎えて、三ヶ月!と新しい母子手帳を渡せば痛いほど抱き締められた。
ともに祝えることが幸せ過ぎて、二人して泣いちゃうかと思った。

貴方には沢山沢山苦しめられたけど、それ以上の幸せを貰ったから。実はもう許してるんだけど。…これは、きっと彼がまだ自分を許せないだろうから。まだ、伝えるつもりはない。



「ありがとう、珠璃」
「ふふ、いいえ。…これからも宜しくね、“お父さん”」
「…っああ」

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