それぞれの勝敗

 2日目競技パート、戦車《チャリオット》。
 この競技は連結された戦車の上から落ちないようにゴールを目指す。足元の戦車はクロッカスの観光名所を巡りながら常に動いてる為、一瞬の気の緩みがミスへ繋がるわけだ。
 そうして、ラクリマビジョンに映されたレースの様子に思わず顔を覆った。

「やっぱり止めれば良かったわ…」
「…ああ」
「まあでもスティングが自分からやると言ったんだからね。自業自得かな」

 ルーファスの言葉にそれもそうねと同意して、開き直ることにする。ラクリマビジョンに映る先頭より遥か後方で団子になりながらグロッキー状態で走るナツ、ガジル、スティングといったドラゴンスレイヤーたちを見やる。

 戦車≠セなんて名前に車がつくのだから、分かるだろうに。いやまあ止めなかった私も私だけど。

 さて。先頭をレイヴンテイル、続いてブルーペガサス、ラミアスケイル、マーメイドヒール、少し離れてクワトロケルベロス…という順で進んでいるようだ。と思えば、クワトロケルベロスのバッカスが片足で踏み込みを入れた瞬間、パワーに負けた戦車が崩壊した。

 そして、バッカスはそのまま駆け出し、一着でゴール。続いてレイヴンテイル、マーメイドヒール、ラミアスケイル、ブルーペガサス。
 それぞれのギルドがゴールしていく中、再び後方のビジョンが映し出される。

『バ、バカな…オレは乗り物など平気…だった…!』
『じゃあ…うぷ。やっとなれたんだな、本物のドラゴンスレイヤーに。おめでとう、新入り』
『ぬぐ…!』

「あーあー。スティングったら煽るわね。余裕じゃない?」
「これ見て余裕とか言えるサラが凄いな」
「そう?」
「…ドラゴンスレイヤーは乗り物に弱いんだな。オレとスティングだけかと思ってた」

 ああ、そういえばそうね。私は知ってたけど。まあナツたちと関わりがあったと知られたくなかったから他のドラゴンスレイヤーたちもそうだって言わなかったわね。
 画面の向こうで、グロッキー状態になりながらも、足を止めずに前へ進むフェアリーテイルの彼ら。

『カッコ悪ぃ。力も出せねぇのにマジになっちゃってさ』
『進むううううう!』
『いいよ…くれてやるよこの勝負。オレたちはこの後も勝ち続ける。たかが1点2点いらねーっての』
『その1点に泣くなよボウズ』

「ああもう、あの馬鹿!油断大敵っていつも言ってるのに!」
「そう言うなよ。このセイバートゥースが、地に落ちた妖精なんかに負けるわけないだろう?」

 フェアリーテイル相手だとそれが分からないから今回は特に油断大敵って言ってるのに…!
 別に、私は1位になることにそこまで固執してる訳じゃない。そりゃ勝てると嬉しいけれど。…スティングがナンバーワンを目指すから。だから、私も頑張ってるのに。

「はァ、まったく」

『一つだけ聞かせてくんねーかな?何で大会に参加したの?アンタら』

 かつてのフェアリーテイルを知ってるスティングからしたら、疑問なのだと。どうしてギルドの強さや世間体を気にするのか、と。彼らに問う。

 それに対して、地を這いながらもナツは叫ぶんだ。


『仲間のためだ。7年も…ずっと、オレたちを待っていた…!どんなに苦しくても、悲しくても、バカにされても耐えて耐えて…ギルドを守ってきた……、仲間のために、オレたちは見せてやるんだ』

 フェアリーテイルの歩き続けた証を!


 は、と息を飲んだ。

 ただただがむしゃらに前を見据えるナツと、ガジル。
 そうして、フェアリーテイルAチーム、フェアリーテイルBチームの順でゴールだ。セイバートゥースであるスティングはリタイア。

 自然と沸き起こる拍手の中、私は前を見れる訳がなかった。


 彼らの居ない時間に耐えきれなくて最悪な形で逃げ出したくせに、私が泣くのは、どう考えてもお門違いだ。

「(ああ、やっぱり)」

 貴方は眩しくて仕方ないよ。――ナツ。

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