舞台の幕開け

 大魔闘演武初日、深夜。12時丁度。

 何度も鳴り響く鐘の音に顔を顰めていれば、外から予選開始の声が聞こえる。ルールは至って単純。形を変え動き出した宿から、ゴールである本戦会場まで向かい先着8チームが本戦出場となるそうだ。
 魔法使用は自由、また制限はなくとにかく出場メンバーである5人でゴールすれば勝ちということらしい。

「さっさと行くぞ」
「うん」

 スティングの声に答えてから、走り出す。途中遭遇した他ギルドの人達を倒しては進み倒して進み。セイバートゥースは1位でゴールだ。

「呆気なかったわね?」
「ああ。物足りねぇー」
「…だな」

 ゴールまでの道のりがあっという間過ぎて、私とスティングは揃ってガッカリしてしまう。ローグはそれを横目に眠そうなフロッシュを抱き上げている。なんだか気の抜ける絵面だと笑って。その後はそれぞれ部屋に案内され、早めに休息を取った。


 そして夜は明け、朝がやってきた。
 多くの歓声を聞きながら、私達は他ギルドが出場した後、最後に入場する。

『さぁいよいよ予選突破チームも残すことあと一つ。そう!皆さん既にご存知!最強!天下無敵!これぞ絶対王者!セイバートゥースだあ!』
「1位は待たされるのよねぇ…」
「そういうもんだろ?」
「ま、そうね。これもトップの努めってやつかしらね」

 スティングと話しながら入場して、レクターたちが居ると言ってた客席に目を向ければ、声は聞こえないけどめいっぱい手を振ってくれてる2匹に手を振り返す。可愛いわね。

「アイヴィ…!」

 ほのぼのしてる私に反して、ザワつくフェアリーテイルチームのメンバー。きっと、ナツ達が話したのだろう。

 彼らへの後ろめたさから胸が痛むけれど、私はまだ誤魔化し続けないといけない。ドラゴンスレイヤーであるナツやウェンディ、ガジルやラクサスには嘘が通じないと思うけど、仕方ない。


 これが私の役目≠セから。


『では…皆さんお待ちかね!大魔闘演武のプログラム発表です!』

 つらつらと進められる説明を聞いて、早速オープニングゲームである隠密《ヒドゥン》が開始される。

「私が出よう。今日は小鳥たちの歌声が心地よい」

 セイバートゥースからはルーファスが出場だ。

「華麗にキメて来なよ」
「ああ、もちろん」

 ヒラヒラと手を振りながらルーファスを見送って、私は出場者観客席に座ってから隣に座るユキノに話しかける。初出場で緊張している彼女の背を撫でてみれば、微かに驚かれてしまう。

「あら、ごめんなさい。びっくりした?ふふ、でも初めては皆緊張するもんよ。やれるだけやるしかないわ。頑張りましょう?」
「っはい!」
 
 そして、隠密の終わりの合図。
 初日からセイバートゥースは安定の1位、気になるフェアリーテイルは7位と8位の結果となった。


 ◇ ◇ ◇


 それから、バトルパート、1試合目。
 フェアリーテイルAからはルーシィ、相手はレイヴンテイルからフレアという赤毛の女の子。
 互角のように見えていた二人の試合だけど、途中からルーシィの様子がおかしくなっていく。ふとフェアリーテイルギルドの応援席に目をやれば、ナツが何かを…赤い髪を引き千切っている。

「まさか、」
「大胆だな、レイヴン」
「…胸糞悪い案件ね」

 ローグの気に食わなそうな顔に同意する。
 そして。今だ!と叫んだナツに答えるように、ルーシィがジェミニを呼び二人になる。言葉を紡ぎ、そこから渦のように湧いてくる強い魔力。

「凄っ!」

 思わず漏れた言葉は、彼女への期待が篭っていた。けれど。その魔法は発動されなかった。否、掻き消された。

 そのまま倒れ込んだルーシィを笑う声。ルーシィの実力が見れなくて落胆した自分よりも、心配した自分が大きくなって首を振る。その側に向かい手を差し伸べるのは、いつだってギルドの中心にいた彼。

「…ナツ」
「ガッカリだなぁ、フェアリーテイル」

 隣でぶつくさ言っているスティングをスルーする。…ううん。ルーシィに手を伸ばすナツと、その手を泣きながらも掴むルーシィの姿に魅入ってしまって。まるで聞こえてなんていなかっただけ。

 もし、あの場に私がいたら、ルーシィになんて声をかけるんだろうか、だなんて。ありもしないたらればの話はよそう。


 続いて、バトルパート2試合目。ブルーペガサスからはレン、マーメイドヒールからはアラーニャだ。これはレンの勝利に終わり、続いて3試合目。クワトロケロベロスのウォークライ、それに対するは私だ。途端、溢れんばかりの大歓声

「有り難い。期待に答えてくるわ」

 バチンとウィンクを投げ掛けてから立ち上がれば、楽しげに笑う彼ら。

「おー。こりゃ早く終わるな」
「ああ」
「でしょうね」
「僕の魔法でもサラが負けたなんて記憶を持ち合わせていないからね。楽勝さ」

 試合開始の金が鳴り、ウォークライが魔法を発動させる。瞬間、ウォークライが体を吹っ飛ばされ気絶した。

『な、なんとー!?試合終了ー!まさに一瞬の出来事!サラの攻撃により涙も乾いてしまった!ヤマジさん解説を!』
『素早く刀を召喚し、目に捉えることが困難なほど早く峰の部分で腹部を一撃。そのまま勢いで吹っ飛んだんじゃな。恐ろしい子じゃ』

 これでセイバートゥースのトータルは20ポイント。完全試合だ。

「もっと楽しんで来ても良かったんじゃねーの?」
「長引くのはあまり好きじゃないのよ。知ってるでしょう?」
「ははっ、そーだった!」

 ケラケラと笑うスティングにくすりと笑いながら返事して、舞台から観客席に戻る。


 そして、早くも1日目最後の試合。
 フェアリーテイルBからはミストガン、ラミアスケイルからはジュラ。

「ミストガン?」

 その名は確か…と記憶を探り、首を傾げてしまう。だって、彼はエドラスに帰ったはずだもの。彼じゃなくミストガンと誤魔化してここに来るとしたら…ジェラール?いやまさか。別の人ということも…なんて考えは、どうやら当たっていたようで。

 ジュラとの戦いで思い切り彼≠フ魔法を使っている。

「あーあ」
「ジュラとここまでやりあうなんて強いな。アイツ」
「ですね。聖十大魔道のジュラ様とここまで…」

 皆がミストガンが勝つのでは?と思い始めた頃、彼は何故かいきなり悶え苦しみだしたと思えば笑い転げ、そして気絶した。
 そのまま試合の結果はジュラが勝者となったが、観戦者からは不完全燃焼だ残念だと呆れた声が上がっていた。
 
 そんなこんなで1日目は終了。

「今年も余裕だな」
「そうかしら?」
「あー?」
「フェアリーテイル。今年は、かつての彼らが居るのよ」
「大丈夫だって。それは7年前の話だ」

 私の手を握り、安心させるように言うスティング。…違う、違うのよ。私は負けてしまうんじゃないか、なんて不安がっているんじゃない。
 彼らの試合に、期待をしてしまっている自分に戸惑っているだけなの。

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