意図せぬ再開
フィオーレ王国。
首都、花咲く都・クロッカス。
年に一度開催される魔道士たちの祭、大魔闘演武。町はフィオーレ中の魔道士や観客で溢れ返っていた。町の中央にはフィオーレ王の居城、華灯宮のメルクリアス。そして、西の山には大魔闘演武会場、ドムス・フラウが建っている。
大魔闘演武は各ギルドが5人の代表を選出して競い合うもの。そのメンバーの1人としてマスターに指名された私は、現在クロッカスへ来ていた。ちなみに今年の出場メンバーは、スティング、ローグ、ルーファス、ユキノ、私だ。
「なんだか久しぶりね」
「ああ、サラは去年不参加だったっけか?」
去年の今頃は長期クエストに出ていたから、ラクリマ越しに見てはいたけど参加はしてないのだ。
向かいに座ってむしゃむしゃとお肉を頬張っているスティングに呆れながら、熱いコーヒーを冷ましながら飲む。ローグもローグで意外とよく食べるのよね。
「アンタ達と食事に来ると、見てるだけでお腹いっぱいになるのよねぇ」
「そう言わずにサラも食えよ!美味いぞこれ」
「遠慮しとく。私さっき1人前食べたから」
「そうか?」
しばらくして食べ終えたスティングはお腹をパンパンにさせながらも満足そうで、口元が汚れてるのが気になってたのでそれを付近で拭き取ってやる。
「おー、サンキュ」
「ん。子供じゃないんだから気にしなよ」
ローグも丁度食べ終わり、ベタベタになってるフロッシュの口元を拭ってあげている。
「ローグって面倒見良いよねぇ」
「そうか?」
「ふふ、うん」
首を傾げるローグに笑ってから、最後の一口でコーヒーを飲み切る。うん、美味しかった!
◇ ◇ ◇
「喧嘩だー!」
少しの間スティング達と別行動をして戻れば聞こえてきた騒がしい声。まさかと思いながら覗いてみれば、案の定野次馬の中心にいるのはスティング達。
「はぁ、あの二人はすぐ何かしら事件起こすんだから。若いからかしら」
それだと私が老けて聞こえるわね、なんて独りごちてスティング達の方へ向かう。
「まだやるかい?」
「馬鹿。こんな所で騒ぎ起こさない」
背後から近寄って軽くスティングの頭をチョップすれば、不満気な顔をして睨まれる。
「んだよ、サラ。今良い所なんだけど」
まあ、怖くもなんともないからスルーしちゃうんだけどね。
「あいつらセイバートゥースの双竜、スティングとローグだ!」
「あっちはグルナ・ナイトのサラだぜ!」
「最強ギルドの一角だ!」
周りに集まっていた見世物客がスティングやローグ、更には私の名を呼んでいることから私達の名がどれほど知れ渡っているのか実感する。なんだかちょっとだけ恥ずかしい気もするけどね。
「セイバートゥースだぁ?」
そこに人並みを抜けて来たのは、桜色のツンツンヘアの彼――ナツ。突然の再会に驚きのままめいっぱいに目を見開く。無意識に、ごくりと喉が鳴る。
「っ!」
「アンタは…」
「ナツ・ドラグニル!」
「!?」
名を呼ばれ驚くナツの顔を、ローグを盾に隠れながらじっと見つめる。向こうの方で青色の猫――ハッピーと、金髪のおさげ女子――ルーシィが話してるのが遠くに見える。
「ははっ!大魔闘演武に出るって噂、本当だったのか」
「オレの事知ってんのか?」
「アクノロギア…ドラゴンを倒せなかったドラゴンスレイヤー、でしょ?それってスレイヤー≠フ意味あんの?」
「ア?」
あからさまな煽りに低い声を出すナツ。
大切な親であり、ずっと探しているイグニール。そんな相手のことをこんなふうに言われたら、そうなるだろう。
「これでも昔はアンタ達に憧れてたんだぜ。ちなみにコイツはガジルさん、サラはエルザさん」
「…同じドラゴンスレイヤーとして気になっていただけだ」
「私も魔法が似ていたからってだけだけど」
一瞬。たった一瞬だけ交わった視線に、ナツはその目を零れそうなほどに見開いた。
「…っお前、アイヴィ!?なんで、だってお前は、」
死んだ、って。
まるでそう続きそうな言葉を、髪を耳に掛けながら。曖昧な微笑みを返す事によって誤魔化した。
それを遠くから見てたルーシィは、口元を覆い息を呑んだ。忘れもしないあの子が何かを誤魔化す時の仕草で。あの子によく似た彼女はきっと、あの子本人だって気付いてしまったから。
「アイヴィ?ああ。コイツよく似てるって言われんだよ。でも、サラはアイヴィじゃない」
「そうなの、私の名前はサラ。ごめんね?」
私は、平気な顔してわらって。貴方達に嘘を吐く。
でもやっぱりドラゴンスレイヤーの鼻を誤魔化すのは難しいようで。あっという間に疑われて、ここ数年聞くことの無くなった本来の名を呼ばれる。
どうしてと言わんばかりのその表情と向き合ってられなくて、目を逸らす。
「でも、オレたちならアクノロギアを倒せるよ?」
あからさまに話を逸らしたスティングに、ルーシィはサラの事を気にしながらも不満げに反論する。
「あんたたち、アクノロギアを見たことないからそんな事言えるのよ」
そう言うルーシィに、スティングはドラゴンスレイヤーの資質の差でどうにかなると話し出す。
レクターが説明をしていくのを聞きながら、そういえばラクサスや六魔将軍のコブラは竜のラクリマを体に埋めてたっけ、なんて懐かしいことを思い出す。
「お前達もX777年にドラゴンがいなくなったのか!?」
「ま、ある意味では…」
言葉を濁すスティングだが、それに続いたローグはハッキリ言ってしまう。
「オレたちに滅竜魔法を教えたドラゴンは、自らの手で始末した。真のドラゴンスレイヤーとなる為に」
親を殺したのかとざわつくナツたちを静かに眺めてから、私は憎らしいほど透き通る青空に意識を目に入れる。そして、間を指すようで悪いがスティングに声をかける。
「スティング、集合時間」
「ああ?…もうそんな時間か。んじゃ、行くか」
「ああ」
背を向けて歩き出したスティングに並ぶローグとサラ。ひらひらと手を振って去って行くその背中に、ナツは彼女の名を叫び掛けた。
「アイヴィ、…っ!」
しかし、ふと視界に入ったそこ。晒された手首にギルドマークが着いてないことに気付き、目を見開いた。どうして、と喉が震えてしまう。
そして、駆け出そうと足を踏み出した途端ルーシィに止められる。
「落ち着きなさい!」
「でも!」
「追い掛けたいのは私も同じ!でも、あの人は、…ううん。アイヴィは拒否したの。確かに私もあの人がアイヴィだと思う。でも、ああやってギルドマークを消したことを見せて来たのよ?もしかしたら何か理由があるかもしれない!ひとまず落ち着いて」
「…ああ。そう、だな」
ルーシィの言葉に少しだけ頭を冷やしたナツは、周りを囲む野次馬にどけどけー!と叫びその中心から駆け出して行った。後ろでルーシィが待ちなさい!と叫んでいるが、スルーである。
「サラ?」
「んーん、賑やかな奴らだなって」
サラは、まるで眩しい物を見るように。その背を見つめていた。