幸せな家族の話

スティング視点


 大魔闘演武が終わり、評議員の仕事でセイバートゥースで過ごしていたサラは、数年の報告をし終えたタイミングで偽りの名を捨て、評議員をやめた。大分渋られたようだが、身籠ったことや過去の事もあり、ラハールやトランバルト、更にはヤジマさんの協力がありやめる事が出来た。

 そうして本来の姿でセイバートゥースに戻り、セイバートゥースの新しいマスターになったスティングと式を上げ。彼女はサラ…否、アイヴィ・ユークリフとなった。

 マスターとなり忙しくするスティングと日々過ごしていく中で、小さな命はあっという間に大きくなり。髪色や顔立ちは父親に似た薄い金色、瞳の色はアイヴィの持つ色。それらに似た男の子が生まれた。
 名前はサリィ。サリィ・ユークリフ。


 現在3歳の、オレ4たちの可愛い可愛い息子の名前だ。

「パパ」
「ん、どうした?サリィ」
「パパは、ママのどこがすき?」

 突然そんな事を問われ、キョトンとしてしまう。いきなりどうしたのかと問えば、いいから教えて!と強請られる。最近のサリィはあれなにこれ何と何でも知りたい時期なので、これもいつものやつかと答えを探して考える。

 ふむ、どこが好きか。

「どんなママも好きなんだけどな。…まあ強いて言うなら、目だな」

 少し照れくさくて頬を掻きながらそう言えば、め?おめめ?と首を傾げるサリィ。

「ああ。真っ直ぐ前を見据えてる時のアイヴィの目が好きなんだ。瞳がキラキラして綺麗なんだよ」
「おめめー!ぼくもみる!ママ、まだかな!」

 そう言って。ソファに置いてある、最近出来たサリィのお友達であるクマさんのぬいぐるみを抱き締めるサリィ。

 現在、ママことアイヴィは久しぶりのクエストに出ている。サリィも3歳になって、1人ではないがお留守が出来るようになった。なので、いつまでも母親にべったりでは駄目だろうとリハビリも兼ねて少し離れる時間を作ったのだ。
 そんな訳で、オレことスティングはサリィと共に家でお留守番をしている。

「お。サリィ、飯食うぞー」
「はあい!」

 暫く一緒に汽車のおもちゃで遊んでいれば、もう昼飯の時間。事前に買っておいてもらった材料で、サリィの大好きなオムライスを作る。今でこそそこそこ手際良く出来るが、昔はこんなに上手く作れなかった。どれもこれも、アイヴィに沢山教えてもらった。

「いただきます!」
「おー、熱いから冷まして食べような。ほら、フーフーしろ。…よし、いただきます」
「ん!おいひい!」

 目をキラキラさせて、幸せだと言わんばかりに目尻を下げて笑う。毎度のことながら心から喜んでくれるので、とても作り甲斐がある。


 ふと。懐かしいな、と思った。
 昔、オレ達が関係を持ち始めた時。オムライスが食べたいと言ったアイヴィに作った物は、卵が少し焦げていたし野菜も上手く切れていなかったしで、如何にも下手くそなご飯だった。
 でも。そんなオムライスを、美味しいよと言ってはにかみながら食べてくれた彼女に、改めてオレは完全に心を奪われたのだ。

 そう。あの日、あの夜。あの時のオレは。強かでいて寂しがりな彼女を少しでも救いたくて、必死だった。


 ◇ ◇ ◇


 その日。オレはレクターと仕事に向かった。内容は簡単な魔物討伐。魔物自体はそんなに強くもなかったのでさっさと片付け、そういえば先日オルガが良い酒が置いてあるバーがあると言っていたのを思い出し、レクターと共にそのバーに向かったんだ。

 いい雰囲気のバーについてみれば、そこにはまだ日も落ちてないと言うのにベロベロに酔っ払って潰れているサラ・ミンディの姿があった。

 彼女は少し前にギルドに入ってきた魔道士で、日も浅いのにその実力からいろんな仕事に駆り出されている。各言うオレも数日前仕事を共にしたばっかりなんだけど。

 その時に見た、真っ直ぐ前を見据えた瞳がなんでか忘れられない。何でなんだろなぁ、なんて目を細めながら、サラさんの左側の席が空いてるのでそこに座ろうと思えば、その反対側に座る男…クワトロケルベロスのバッカスだったか。その男に肩を組まれ、何だか危うい雰囲気だ。

「姉ちゃん此処に来るのは初めてかぁ?見ない顔だなぁ!美人のねーちゃん!」
「うぅ、…揺らさない、で……」
「おーん、姉ちゃんスゲー酔ってんなぁ?そうだ。どうだ?姉ちゃんと会ったのも何かの縁だ、これから俺の家に、」

 馴れ馴れしく話す男と顔の距離が近い。ぽけっとその光景を見ていたが、何となく胃がムカムカしてきたので八つ当たりも込めて彼女の名を呼ぶ。

「サラさん!」
「あ…?」
「うぁ、叫ばないで…」

 頭を抑え弱ってる姿に慌てて謝りながら、バッカスには腕を退けるように託す。すると、ニヤついた男はスグに腕を退けた。

「何だ、姉ちゃん男居るんじゃねーか。あんま無防備になんなよなぁ」
「…?」
「気にしなくていい。サラさん。大丈夫か?」
「…ん、…なんとか……」
「そろそろ帰った方が良い。送るよ、家は?」

 そう問えば、場所を教えてくれる。立ち上がれるか聞くも、飲みすぎて動けないと言う。仕方ないので、料金を支払ってから彼女を背負って帰ることにする。

「おー、姉ちゃんマジで量飲んでるからなぁ、あんま激しい事すんなよー?あ、するならベッドでな!」

 なんてとんでもない事をバッカスに言われる。反射的にしねぇよ!と叫び、ゲラゲラと笑うバッカスやバーの客たちをBGMに彼女を連れ出した。
 そうして、彼女の家の前まで来たのだが、勝手に入って怒られないかと思って足を止めてしまった。だが、まあ今更だ。酔っ払って潰れてるサラさんが悪い、と開き直り部屋に上がることにした。

「うわ、物少な」

 初めて入った彼女の部屋はあまりにも生活感がなかった。家具も少なく、酷く寂しく感じる部屋だ。

「…ん、……ん?」
「…、…サラさん、ほら。ベッド」

 意識が浮上したのか、ぼんやりとしたエメラルドグリーン瞳がオレを見つめている。その事に一瞬魅入ってしまったが、スグに我に帰り彼女をベッドに下ろす。ぼんやりとした表情のサラさんに、水を持ってこようかと問おうとして、その先の言葉は熱を持った何かに遮られる。

 一度だけ触れて離れた暴力的な熱がまた触れる。そして、熱に濡れながら細められた瞳。
 まるで彼女に縋られているようで、勘違いしてしまいそうだ。


「ねぇ、…すてぃんぐ」


 呂律の回っていない、どこか泣きだしてしまいそうな声色。きゅ、と胸元に添えられた手がオレの服を掴む。
 こくり、と。勝手に喉が鳴った。

「……ねぇ、さみしいの」
「サラ、さん…?」


「おねがい、だきしめて」

 そう言って。縋るようにもう1度唇に触れた熱は微かに震えていて。

 そこで嗚呼、と観念した。オレは初めて彼女と仕事を共にしたあの日から、この瞳に魅入られてしまっていたのだと。

 まあつまりは、ここまで好きな女≠ノ縋られて断るなど無理な話で。その夜。オレ達は愛の言葉を囁くことなく…ただひたすらに体を繋いだ。

 
 ◇ ◇ ◇

 
 翌朝、オレは二日酔いと風邪のダブルコンボでベッドとお友達になってしまった彼女の面倒を見る事になった。

 数日経ち少しだけ熱の引いた彼女。食欲が出たのか急にオムライスを食べたいというサラさんに、料理なんて滅多にしないオレはどうにかこうにか作って。見た目はアレだけど味は大丈夫だからとか誤魔化して、それから黙々と食べるサラを見つめていた。

「…まずい?」
「…んーん。泣きたくなるくらい美味しい」

 そう言って、喋った瞬間頬を濡らし始めたサラさん。黙々と食べていたのは泣くのを我慢していたのだと気付いた。
 そうして、彼女は1人で強くあろうとしながら誰よりも寂しがり屋だと知ったオレは、彼女に告白しようとした。…でも、そういう雰囲気になった途端、サラさんは酷く怯える様子を見せた。

「…ごめん、私は…もう、2度と大切な人を作りたくないの」
「…、そっか」

 そう言って眉を下げ、何処か遠くを見つめたサラさん。でも。どうしてもオレは諦めきれなくて、それなら、と続ける。

「それならさ、寂しい時だけでも、オレを呼んで。…都合の良い男で良いから」
「でも、それは」
「良いんだ。…オレは、サラさんに1人で泣いて欲しくないだけだから」

 その言葉に折れたサラさん…サラ。
 そして、オレ達はその後無性に寂しくて辛いときにだけ体を繋げる関係になった。

 あとから聞けば、その日はギルドフェアリーテイルの一部メンバーが姿を消した日から四年が経った日。そして、サラがアイヴィだった頃の過去を思い出した日だったそうだ。


 ◇ ◇ ◇


 それから、時は戻り現在。
 初めて夜を共にした日を思い出しながら、懐かしいなと目を細める。あの日々は確かに辛かったけど、それでも彼女の心を守れていた。そして、その果てにオレは彼女と結ばれて、愛しい我が子に出会えた。

「よし!サリィ!ギルド行くか!」
「いくー!ローグくんとあそぶー!」
「お前はホントにローグが好きだなぁ」

 それから、支度をして戸締まりをして、オレ達のギルド、セイバートゥースに向かった。ギルドが近付くに連れて段々走り出すサリィにコケるなよと声を掛けながら、オレはのんびり歩く。

「スティング?」
 
 ふと名を呼ばれて振り返れば、先程まで思い出していた彼女の姿。

「よ。おかえり、アイヴィ」
「うん、ただいま。ってかどうしたの?今日は家に居るんじゃなかった?」
「ああ、そうなんだけど…家に居ても暇で暇で」
「なるほど。でもたまにはギルドから離れてゆっくり休むべきよ、マスター?」

 そう言って笑うアイヴィに、スティングはギルドから離れるなんて無理だと笑う。すると、母親が帰ってきたのに気付いたサリィが、二人を呼ぶ。

「あ!ママ!パパー!」
「ふふ、お呼びみたいね」
「だな」

 視線の先には、掛け替えの無い仲間が何気ない日常を過ごしていて、2人の愛の結晶であるサリィは母親であるアイヴィに抱き着こうと駆けて来ている。

 ぼふ、なんて勢いと共に抱き着いてきた我が子を抱き締めたアイヴィは、ただいまと言いながら頬ずりをする。サリィはくすぐったいと言いながら、おかえりと笑った。
 そして、そんな光景を見ていたスティングは、その光景がとても眩しく見えて。らしくもなく幸せだと叫びたくなった。




「ふふ、サリィ。今日は何をしていたの?」
「えっとね、えっとね!」
「順番に話すよ。さて、ギルドに入ろうか!」


 そうして彼女達は、ギルドに歩みを進めた。
 今日も明日も、彼女彼等の物語は進んで行く。

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