誰が為に祈るのか

 大魔闘演武4日目、競技パート。海戦《ナバルバトル》。

 今回はミネルバが名乗り出たので、私達は観戦することに。今回の試合のルールを簡単に言うと球状の水中闘技場から外に出てしまったら負け。最後まで残った者が勝者となる弱肉強食ルールだ。
 ちなみに最後に2人だけ残った場合にのみ特殊ルールが発動するらしい。その特殊ルールとは、最後の二人になってから五分の間に場外に出てしまった方が必然的に最下位となるらしい。最後まで気が抜けないルールだ。

 試合開始早々、水中での激戦が続く。しかし、開始数分でジュビアが他の三人を場外へと出してしまう。残りメンバーがジュビア、ルーシィ、ミネルバとなり因縁の対決…と思われたが、ジュビアはミネルバの魔法ですぐさま場外へ飛ばされてしまった。

「お嬢も人が悪い」
「確かにね」
「そうね。ミネルバの魔法なら一瞬で全員場外、なんて余裕だったろうしね。…何を考えてるのやら」

 ミネルバが何をするか、なんて私は知らない。けれど、なんだか胸騒ぎがする。やり過ぎないでくれると有り難いんだけど。

『残るはミネルバとルーシィの二人のみ!さぁ…勝つのはどっちだ!?セイバートゥースか、フェアリーテイルか!…そしてここで5分ルールの適用です!』

 残り1分弱。ルーシィの負ける気の更々ない言葉を聞いたミネルバが、攻撃を止めた。不思議に思いつつも息を整えるルーシィ。
 時計は5分経過し、後は普通に順位を付けるだけとなった、瞬間。

「あああああ!」

 ルーシィの、悲鳴。

「頭が高いぞフェアリーテイル!我々を何と心得るかっ!?我等こそ天下一のギルド、セイバートゥースぞ!」

 ミネルバからの怒涛の攻撃。その勢いのあまり場外へ飛ばされるかと思ったルーシィだが、次の瞬間にはその体はミネルバの目の前に戻ってしまっていた。

 そして、繰り返される攻撃。否、暴力。

 ミネルバの嗤いが響く中、こちらを睨みつけるフェアリーテイルのメンバー。しかし、その時の私はそんなこと気付いてすらいなかった。だって、今にもルーシィの名を叫んでしまいそうな口を抑えるのに必死だったから。

『こっ、ここでレフリーストップ!競技終了!』

 重傷のルーシィを慌ただしく囲む声。ウェンディやシェリアが応急処置を施し医務室に運ぶ彼女を無意識に、食い入るように見つめてしまう。だから、ローグに肩を叩かれてひどく驚いた。

「大丈夫か?顔色が悪い」
「っ!ごめん。なんとか大丈夫。…相変わらずミネルバはやり過ぎる」
「…そうだな」

 そう言って、2人して下の様子を見る。ミネルバの発言にカッとなったナツ。一触即発かと思われたが、エルザの制止によりナツ達は踏みとどまっていた。

「最強だかフィオーレ一だか知らんが、1つだけ言っておく。お前たちは1番怒らせてはいけないギルドを敵に回した」

 不敵に笑うミネルバやスティングたち。それらを見つめ、私はどうしてこんなにもままならない場所にいるのかと、らしくもなく泣きそうになった。


 ◇ ◇ ◇


 フェアリーテイルの再編成も終了し、バトルパートの開始。1日目のブーイングが嘘のように大歓声に迎えられ入場してきたフェアリーテイル。その、前を見据える眼差しが。あまりにも真っ直ぐで、眩しくて。私は彼等から目を逸らした。
 続々と試合は進み、早くも3試合目。本日ラストの試合。

『興奮冷めやらぬ会場ですが、次のバトルも目が離せないぞー!7年前最強と言われていたギルドと…現最強ギルドの因縁の対決!

 フェアリーテイル、ナツ&ガジル VS セイバートゥース、スティング&ローグ!

 しかもこの4人は全員がドラゴンスレイヤー!ついに激突の時ーー!勝つのは妖精か虎か!?戦場に4頭のドラゴンが放たれたァ!』

 目指すものの違う彼等の戦い。どちらにも、勝ってほしいだなんて。こんなにも苦しくて矛盾した感情を抱くなんて、今の今まで思っていなかった。

「平和ボケしたかしら」

 思わず、溜息を落とすと共にそう呟いてしまう。

 開始の声と共に構えたスティングとローグ…しかし、遅い=Bナツたちに押され気味だったスティング達は早々にキメることにしたようで、魔力増幅術を使い踏み込んだ。数は喰らわせる2人だったが…聳え立つ壁に、呆気なく止められる。

「中々やるじゃねーか。だけど、まだまだだ」
「あまり調子に乗んなよ、コゾー共」

 ニッと笑ったナツとガジル。彼らからの反撃に、スティングは滅竜奥義を発動。

 しかし。

「この技が塞がれた記憶などないね」
「格上も格上って話ね」

 ナツは、片手でその拳を受け止めてしまった。それからは、ナツとガジルによる怒涛の攻撃に成すすべもないスティングたち。

『こ、…こんな展開…!誰が予想出来たでしょうかー!?セイバートゥースの双竜、フェアリーテイルの前に手も足も出ずーー!このまま試合は終わってしまうのかーー!』

 ドラゴンフォース。
 それを身に纏うスティングとローグ。流石にこうなってしまった2人には、ナツ達でも危ないのでは、なんて考える。
 スティングは2人を前に4人でも十分だなんて余裕の一言。人の心配を気にもしないで何を言っているのかとむっとして、そこでふと気付く。無意識に、祈るように手を握り締めていたことに。

 スティングからの攻撃の衝撃で、建物が壊れてしまいました地下へ落ちて行く。ナツたちの攻撃を避け、彼らを追い詰めていくスティング。そして、ナツとガジル…彼らが倒れ込んでいる姿に、両者ダウンか!?なんて声が遠くに聞こえる。


「ちょーっと待てって!」


 嗚呼、と喉が震えた。
 ケロッとした様子で立ち上がる二人に、ざわつく外野。やっぱり一筋縄じゃ行かない人だ、なんて心の中で笑って。

 スティング達に勝ってほしいなんて思いながら、実のところかつての仲間を忘れられずにいる馬鹿な私はナツ達のことも応援してしまう。……どちらを応援しているのか、忘れてしまいそうになる。

 なんだか言い合いをしていた2人だが、ナツがガジルを近くにあったカゴに押し、ハマってしまったタイミングで近くにあった、レバーを引いた。動き出し乗り物≠ノなってしまったそれに目を回し動けなくなったガジルは、カゴが動くままどこかへ消えて行った。

 そして、ナツは拳を前に、不敵に笑った。


「オレ一人で十分だ!まとめてかかって来い。
 燃えてきただろ?」

 自身に溢れた懐かしいその言葉に、一筋。
 勝手に涙が零れた。


 あからさまな煽り方をしたナツに見事に釣られてしまったスティングとローグ。
 何度も、何度も。立ち向かって、倒れて。這い上がって、食い付いて。それでも尚余裕な顔して来いよ、なんて笑うナツ。

「スティング!」
「おう!」

 ユニゾンレイドを発動する、彼ら。でも、私が思ったのは勝てることへの期待ではなくて。この時私は、それと真反対の…セイバートゥースの敗北を悟った。


 聖影竜閃牙!
 滅竜奥義 紅蓮爆炎刃!

 
 スティングとローグが倒れ込み、立ち上がらない。

『フェアリーテイルだーー!
 双竜破れたりーーっ!!』

 沸き起こる歓声。唖然としたルーファスに、不機嫌なミネルバ。

 負けた。

 それを理解した瞬間。スティングの、憧れを追い掛けてきたその背が見えて、気付けば私は形振り構わず彼の名を腹の底から叫んでいた。

「スティング…!」

 絞り出し何かを伝えようとした声は、歓声に呑まれて掻き消えてしまうけど。それでも、この時私は貴方に。……何かを伝えなければならないと思ったの。


『勝者フェアリーテイルーー!ここに来て1位に躍り出たーー!これにて大魔闘演武四日目終了ーー!
 1日休日を挟んで明後日最終戦が行われます!最終日はなんとメンバー全員参加のサバイバル戦!果たして優勝はどのギルドか!?皆さんお楽しみにーー!』

 そんな賑やかな声を最後に音声は途切れ、わらわらと帰っていく観客。そして、負けた≠ニいう事実を噛みしめる私達。

「まさかあの2人が負けてしまうとはね、フフ。面白い試合だった。しかと記憶したよ」
「…しばらくは荒れるでしょうね。主に八つ当たりで」
「しばらく=cがあればよいな」
「それもそう、ね。それじゃあ私はスティング達のところに降りるわ。先帰ってて」
「ふ、ああ。承知した」

 タンッ、と塀に手を掛けそこから競技場に飛び降りる。それから派手にやったなぁと思いながらも地下に降り2人の側に向かっていたら、ボロボロながらも笑顔なナツが、2人に声を掛けてきた。

「また戦おうな」

 相変わらず良い奴≠セ、なんてふっと笑ってしまう。

「ん。アイヴィか!…そっか、今はセイバーだっけか」
「はぁ、もはや訂正も面倒だからしないけど。…スティング、スティング?ローグも、駄目ね。ボロボロな上に2人共気絶してる。これは少し寝かさないと起きないわね…」

 医療班呼びましょう、なんて自己完結して人を呼びに戻ろうとすれば、ナツに腕を掴まれる。

「っ、」
「アイヴィ、話をしよーぜ。…どうして、」
「アイヴィなんて知らないわ。いい加減にして。私は、セイバートゥースのサラ。…話す事なんて私には無い。離して」

 腕を振り払えば、一瞬傷付いた…というよりはムッとした表情になるナツだけど、ルーシィに名を呼ばれ背を向けて行った。その背を見ていたらふと。言葉の欠片が滑り落ちた。

「…、まだ=A……なんて、ね。……さて。人呼んでこないと!」

 そう、まだ貴方たちに全てを明かせないのだと、一瞬言ってしまいそうになった。待っていてほしいなんて、甘えたことを言いそうになってしまった。…そんなこと、今更出来ないのに。



「まだ=c?」

 ナツがその言葉を拾って顔を顰めていたなんて、その時の私は知らない。

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