過去に惹かれる

 スティングと愛し合って、さあ明日に備えて眠りにつこうとしたタイミング。

 響きわたった突然の爆発音に驚き、ぱちりと目を開ける。隣で起き上がったスティングを見ながら気だるい体をのそのそと起こそうとすれば、それと同時ドアが開く。

「スティング、侵入、しゃ、っ!?」
「あら」
「っば、見んな!」
「スマン!」

 バタンと勢いよくドアを閉め部屋を出たローグ、私に布団を被せるスティング。ちなみにこれは何も身に纏わず如何にもだるそうで起き上がった私と目が合ったローグと、それを見たスティングの一瞬の行動だ。

 それから、部屋を出る為に服を手にすれば私をベッドに引き戻したがるスティング。
 そんな彼に存外大丈夫だと笑えば、どこか不満そうだが無理やり納得し自身の服を着ている。私は少し乱れた髪を梳かしながら、声を投げ掛けゆっくりと起き上がる。

「何処の奴かしら?」
「さぁ。っつかサラはゆっくりしてろよ」
「そう?」
「ん。あんま無理してほしくない。さて。んじゃ行ってくるかな」
「はぁい」

 服を着たスティングが慌てて部屋を出て行くのを見送る。

「伊達に鍛えて無いし動けないことも無いんだけど。…ゆっくり、と言われたことだし。ゆっくり行こうかしら?」

 欠伸を噛み殺して立ち上がれば、纏っていたシーツが床に落ちた。


 ◇ ◇ ◇


「今宵の宴もこの辺でお開きにしまいか」
「ア?」

 ジエンマの勝手なことをするなと言う声に、ミネルバはこのままま続けても良いが世の中には体裁という言葉がある、と言う。

「攻めてきたのがソチラであったにせよウチのマスターが大魔闘演武出場者を消したとあってはわれわれとしても立つ瀬がない。父上も部下の手前少々熱が入り引くに引けぬと見えた。どうだろう?このは妾の顔を立ててはくれまいか?さすればこの子猫は無傷でそなたに返す事もできよう」

 そう言いながら魔法を発動させたミネルバの手元には、先程ナツと離れたところを捕らえられたハッピーが。

「ごめんナツ〜!」
「ハッピー!…っくそ!」

 大人の対応を求めるミネルバに対し、奥歯を噛み締めたナツは応えた。静かな空間に一つの足音が響いた。

「ミネルバ、その猫君離してあげなさい」
「…おや、サラか」
「……!アイヴィ!」
「私はアイヴィじゃないって。…ほら、おいで青猫君」
「あ、あい…」

 ナツの言葉を否定しつつ、護衛ですからね!と言って腕の中に居たレクターをスティングに返し、青猫――ハッピーを受け取りナツの元へ向かう。そして、小さな声で挨拶を。

「返すわ。…元気そうねぇ、ナツ」
「!…お前もな」

 意味深な発現を、敢えてここで落とす意味。
 ナツからのなんでどうしてを塞ぎ込んだ嫌味みたいな言葉に微かに笑って、最後にハッピーの頭を一撫でして去るのを待てば、引かれる手。

「サラ!」
「─────、────」
「ッ!」

 スティングの叫び声に掻き消えるように耳元で落とされたその言葉に、目を見開いた。
 急に接近した距離にスティングが掛けてくるのを片手で制して、ナツを見つめる。どこか満足気なその顔に目を細めて、帰りなさいと告げる。

「……帰るぞ、ハッピー」
「オイラ…入口で捕まっちゃって…ごめん」
「いいんだハッピー。オレの方こそ放っておいて悪かった。帰ろ」
「あい」

 決着は大魔闘演武でつけようと言うミネルバに、ナツは負けないと、いやオレたち…フェアリーテイルには追いつけないという。

「ギルドなら仲間大切にしろよ。オレが言いてえのはそれだけだ」

 去って行く、記憶と変わりない背中を見つめる。


 ああ。いつまで経ってもその眩しさは、強さは、優しさは。……変わってないのね、ナツ。


「大丈夫か、サラ!…今の、」

 彼らが去れば心配した声色のスティングが駆け寄ってきたので、大丈夫だと答える。それでも心配して、まるで迷子の子供のような音で私の名を呼ぶので。仕方ないなぁと笑って。

「大丈夫よ、スティング」
「…ん」

 あやすように、全てを誤魔化すように。彼を抱き締める。

「相変わらずお熱いのだな、あの2人は」
「ですね」

 なんてミネルバとルーファスの声を遠くに聞きながら、背に回った彼の腕を感じながら。先程耳元で落とされたナツの声が反響していた。



「生きてて良かった、アイヴィ」

 嗚呼もう、そんな事を言われたら。訳も無く泣きたくなる。でも、そうね。
 それはこちらのセリフよ、ナツ。

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